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ライトノベルは斜め上から(8)――『メイド喫茶ひろしま』

こんばんは、じんたねです。

最近、ランニングを再開したのですけれど、やっぱり体を動かすと気持ちがいいですね。

 

さて、本日話をするのは、この作品!

メイド喫茶ひろしま (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

メイド喫茶ひろしま (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

 

 

 解題――方言女子は、キャラ記号であることが可能か

 

1.作品紹介

真っ赤なバイク‐CB400FOURを駆り、“赤ヘルの多麻”と恐れられた彼女の名前は、滝本多麻。熊をも倒す腕っ節と、情の厚さで他県にまで、その勇名を轟かせた彼女を、突然の不幸が襲う。育ての親でもある祖父が、東京で倒れたのだ。祖父の治療費と、彼が営んでいた喫茶店の借金返済のため、多麻は謎の美少女、遠山葉月の助言で、メイド喫茶の経営に挑むが…。欲望うずまく池袋の繁華街を舞台に、萌えと人情、愛とアクションが交錯するメイド喫茶ひろしま、本日開店!

 

2.あまりにも、あまりにも吉本新喜劇的な

本作品の魅力は、とりもなおさず、個性的なキャラたちが織りなす、ちょっぴり大変だけど平和で心地よいドタバタ喜劇にあります。とにかく登場するキャラクターたちが入り乱れ、あちらこちらでコミカルな駆け引きを繰り広げるのです。

 

まず何といっても主人公の滝本多麻。どんだけ面白い主人公なのかは、作品の言葉に説明してもらったほうが分かりやすい。

 

「『赤ヘルの多麻』の噂は、たしか聞いたことがある。喧嘩がとてつもなく強えやつで、博多最強と言われた『キャナルシティ山田』や、高知の『土佐犬狩りのハチ』にも勝ったっちゅう話じゃ。山陰の熊も何匹か殺ったとか殺らなかったとか……真っ赤なCB400FOUR(ヨンフォア)に乗っとるはずじゃ……!」(11ページ)

 

「で、出たぁ! 『赤ヘルの多麻』の決め台詞、『ササラモサラ』じゃっ! 『仁義なき戦い完結編』において松方弘樹演じる市岡輝吉が発した言葉で実際にはまったく使われていないマイナー方言『ササラモサラ』とはすなわち『無茶苦茶』という意味じゃが多麻さんは微妙に使いかたを間違えているっ……!」(17ページ)

 

もうね、ここは読みながら大爆笑しました。ぶっちゃけ話をしますと、私は広島県呉市生まれであり、そこで育ったという経歴を持っています。なので、呉市の実情がどうなっているのか。肌身に感じながら、多感な時期を過ごしてきました。

 

いやね、山陰ならクマよりもマムシに注意しないといけなくてですね。中国ブロックの暴走族は、他県にまで勢力を伸ばすほど強くはなかったと記憶していますし、暴走行為をするような、走りやすくかつ取り締まりの弱い道路って、そんななかったはずなんですけどね。私もほんと「ササラモサラ」なんて、まだ一回も言ったことがない……。とにかく、この破天荒っぷりのオンパレードの主人公が、もう、楽しくてかわいくてしかたない。

 

主人公の多麻ちゃんに限らず、登場するキャラクターたちは、どこかぶっとんでいる。登場した瞬間に「ああ、こいつら何かやらかすだろうな……ああ、やっぱりやらかしたよ! うひひ!」なんて、読みながら手を叩いてしまう。

 

この感覚、そういえばどこかで見覚えがあるなあ、と思っていたのですが、思い出しました。そうなんですよ。これ、吉本新喜劇の話づくりなんです。冒頭から畳みかけるように濃ゆいキャラクターたちが登場し、あれよあれよという間に新しいシーンに変わり、彼ら・彼女らたちが、舞台のうえを縦横無尽に暴れまわり、そして最後はちゃんとしんみりとして終わる。

 

たとえば、このやりとり。とても吉本的です。多麻ちゃんが嫌味なキャラクターに大事な情報を隠されています。本当のことを知っとるんなら教えてくれや、と聞くシーン。

 

「うん? おまえら、何か知っとるんか?」

「えー。ふふふ。どうかしらねえ。うふふふふ」

「そっか。じゃあええわ」

「ちょっと! どうしてスルーなのよ! 明らかに知ってる素振りでしょ!」(201ページ)

 

コミカルですよね。それでいて誰も傷つかない。敵と味方、という立場の違いがあるにもかかわらず、そこに壁を感じない。吉本新喜劇を見たことのある人ならお分かりだと思いますが、芸人さんたちはお互いの身体的特徴(往々にして「欠点」とされるもの)をくさします。私がお気に入りなのは、とある人の顔が長くて、それをポットに見立ててからかう、というやつ。

 

だけど、それを安心して見れます。どうしてか。実は、くさしていないから。笑いものにするんだけど、本音ではそう思っていない。本音で思っていたとしても、そう口に出すことで、隠し事はしないよ、というメッセージを発しているから。手垢のついた言葉ですが、「人情」が伝わってくるんですね。人情が、本作品全体を貫いており、それが全力でエンターテイメントしているのです。

 

3.キャラ記号の駆使

吉本的エンターテイメント性が、本作品においては、キャラクターの背景を敢えて掘り下げないという手法に結実しています。いろんなキャラクターたちが、ほんと忙しなく活躍しているのですが、どうしてそうなっているのか、生い立ちはどうなのか、に触れない。あくまでも「広島弁をしゃべる主人公」「百合な彼女」「ヘラヘラした優男だけど、いざというときはカッコイイ」という、終始キャラの記号に落ち着いています。

 

補足しておきますが、これはキャラクターの掘り下げがなっていない、という批判ではまったくありません。事態は真逆です。キャラクターの背景を描くことはできたけれど、ここではそれをしないことによって、エンターテイメント性を高めているのですから。

 

それは多麻ちゃんのありようを見れば、すぐに分かります。

 

彼女は、おそらくレディースに所属していて、広島にいるときは、かなり走りも喧嘩もやっていたという設定です。本作中には携帯電話を使用するシーンがあるので、時代背景としては、高校生が携帯を所持できる頃、そしてメイド喫茶が市民権を獲得している頃、すなわち2000年代だと考えられます。

 

私が高校生の頃は、まだPHSやポケベル(!)が現役で頑張っており、携帯の所持は常識ではありませんでした(もうPHSやポケベルだなんていっても、誰も分からないかな。分からない方は、ググってみてください)。

 

その時代に暴走族は、もう現役ではなかったと記憶しています。特攻服の刺繍を受けつけてくれるお店はのきなみ消えてゆき、えびす講の取り締まりも強化され、広島では、かなり下火になりましたし、その火が大きくなったという話は聞きません。

 

レディースに所属していた彼女たちのうち、一定数が「女子高生」というブランドの衣装を身にまとい始めたのも、この頃です。元々は、関東県都市部において風俗業とのつながりから「女子高生」というタグが生まれ機能したのですが、そこからさらに「JK」とタグを変え現在ではかなり一般的になっています。レディースと女子高生とのぶつかり合いや、そこから鞍替えしていった女性たちがいることに鑑みますと、本作品で描かれている、多麻ちゃんはフィクション、そうでなければ本当にごくまれなケースだと言えます。

 

4.暴走族・方言女子という記号性のゆくえ

そんな多麻ちゃんが、暴走族をめぐる状況の説明もなく、ぽんと登場して、自然に読まれるのは、私たちがすでに「暴走族」という記号性を知っているからです。ツッパリやヤンキーマンガの文化が蓄積された結果でもあるでしょう。コテコテのレディースキャラとしての多麻ちゃんは、本当に王道を進みます(あんまりしゃべるとネタバレすぎるので、自粛)。

 

そして彼女の魅力に欠かせないのが、方言女子という記号性。これは、まだ定着して日が浅いと思うのですが、ここに深読みをできないこともない(深読み・斜め読みのブログなので)。方言といえば、かつてはそれをしゃべることは恥ずかしく、誰しもが隠すものでした。それは作中にもちゃんと描かれています。地方出身者が集う、東京。そこでは誰もが「標準」語をしゃべり、自分の出自を隠し通そうとする。私がまだ若い頃(?)、方言丸出しというのは――関西弁を除いて――珍しいことでした。

 

しかし最近、状況が変わってきています。

 

方言女子が可愛い、という認識が広まってきました。私の記憶だと『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』に出てくる、モエモエが熊本弁丸出しで可愛い、という扱いがありましたが、あの辺が最初ではないでしょうか。

 

もちろん、とはいえ。都心・地方という図式は変化していないでしょう。「方言が可愛い」という感性や価値観それ自体に、どこか「都心=文化の中心である自分」よりも下であるという態度が隠れているとも考えられるからです。

 

大変うがった見方をすると、本作品は、そんな価値観の転覆が孕まれているとも解釈できます。多麻ちゃんという広島・方言女子が、東京に出てきて、そこで活躍する。東京のロジックではなく広島のロジックを強引に持ち込み、周囲を巻き込んで、新しいメイド喫茶を作り上げる。それはまるで、都心・地方という図式に挑戦しているとも解釈し得るからです。

 

これから方言女子という属性が、他の属性同様に、生き残っていくのかどうかは、私には分かりません。ですが、それが定着するためには、方言がキャラ語(「~ですわ」「~じゃよ」「~ぞなもし」といった語尾などに代表される)のように汎化することが必要になってくるでしょう。

 

さて、広島方言女子という、何たるニッチ属性を盛り込むのかと思いきや、吉本的お笑いに通じる、ドタバタ喜劇として、純度の高いエンターテイメントを提供している本作品。ぜひ読んでみてください。

(文責:じんたね)

 

次回はコチラを予定していおります。

 

少女幻想譚 (隙間社電書)

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