ライトノベルは斜め上から(51)――『その女、最強につき』

じんたねです。

ひどくお久しぶりの更新になります。

思えば、毎日のように更新しようと試みておりましたが、その際の目標は達成できてしまったため、ブログ執筆を止めておりました。

 

これからは時間があれば、ぼちぼちと気分転換としてブロクを更新していこうかと考えております。

 

さて、本日のお題はコチラ。

 

 

解題――お前に「ジャブ」が見えても、「前方へ飛びかかるように上段二連回し蹴り」は理解できまい?

 

1.作品概要

 学園アクションエンターテインメント――始動

 日本最強の武術、鷲峰流実戦総合格闘術の十代目師範――鷲峰恋火。彼女のまえに現れたのは、超ワガママでお転婆で金持ちの武闘派お嬢様。

 主人公の鷲峰の過去が、合間合間に見え隠れしたり、ライバルとのバスケットボールに興じてみたり、弟子たちの熱闘や、学園内でのコメディチックなやりとりなどが交えられますが、基本的にはアクションに重きをおいたライトノベルと言い表すことができる作品です。

 というのも、文面の半分以上が殴った蹴ったの記述に集中しており、そのやりとりをイメージしながら読めば、手に汗にぎることは間違いないでしょう。

 

2.アクションシーンのリアリティと活劇性

さて、本作品全体を呼んで、じんたねが一番興味深いと思ったのは、アクションシーンをどのように描くことができるのか、でした。

わたくし、いろいろとラノベらしいものを書いてきたのですが、アクションを上手に書くことにかんしてはからっきしダメです。何度書いても消して、何度書いても消して。満足いくものは一行も書けた例がない。

だって、アクションを描写すると、長ったらしくなって切れ味がなくなるから。それに、技名がない描写はつまらないけれど、技名のついていないオリジナルの必殺技で活劇させようとすると、やっぱり描写に文字数をくわれて長ったらしくなるから、です。

ちょっと例文を書きましょう。

 

ジンタは左のジャブを2発繰り出した。軽いスウェーでタネコがかわした――はずだった。タネコがスウェーから着地を果たした瞬間、赤い液体が、ぽとり、と足元に落ちた。痺れるような熱が、口元から込上げてくる。

その隙を狙い、ジンタは体重ののった右ストレートを放つ。ぐちゃりと軟骨の砕ける耳障りな音とともに、タネコはその場に崩れ落ちた。

 

 

文章の質については問わないことにしてください。この上述のアクションシーンもどき、それなりにキャラが何をやっているのかを理解できますし、テンポも悪いほうではない。こんなボクシングの用語――ジャブやスウェーやストレート――が並び続けるアクションは、ボクシングを題材としたライトノベルなら読み続けることができるでしょう。

 

でも、総合格闘技のように流派や競技にこだわらないライトノベルだとすれば、さらに言えば、まるで格闘ゲームのようなアクションを描こうとすれば、ひどくつまらなくなってくる。

 

なぜか。

技名がはっきりしているものはイメージしやすいが、その分、けれん味がないから。

 

年齢のばれる思い出話をさせてください。ストリートファイター2が世間に出回り始めた頃、あの波動拳昇竜拳といった必殺技が、どれほどかっこよく面白かったことか。既存の格闘技のスタイルを模倣しつつも、少年まんがよろしく、オリジナルなかっちょええ技を見せてくれていました。オリジナルの必殺技というのは、いつでもどこでも、血をたぎらせるアクションシーンの花形だと、じんたねは思っています。

 

だけど問題が出てくる。

オリジナルの必殺技は描写が大変で、テンポが悪くなる。

 

ジンタはその場に両手をつき、逆立ちのような大勢をとる。

――何をするつもりだ……?

タネコが直突きのできる日本拳法特有の構えをとったまま警戒していると、ジンタは両足を開き、それをプロペラのように回しながら、数え切れないほどの回転蹴りを、上体めがけて繰り出してきた。

 

 分かりますよね。ジンタはスピニングバードキックしたんですよ。もう常識になってるから、これくらい「スピニングバードキック」と言えば分かりますけれど、それが常識になってない状況だと、もう描写が長い長い。書いている私も、もう飽きてきそうな勢いでした。

 

3.必殺技はどうやったら描けるか

この問題を解決する方法として、じんたねが知っている限り、4つくらい方法があります。

1つは、短文、単語を並べ、テンポよくアクションシーンを切り盛りする。体言止めが用いられることもあります。冲方丁先生のシュピーゲルシリーズを読めば、その意味するところは分かるかと思います。慣れるまでちょっと読みにくいという難点があります。

2つは、背景知識を設定すること。これはウェブ発の小説では、もはや常套手段です。つまりゲームやアニメで展開されてきた種々の必殺技をそのままトレースして、描写に活かす。「竜巻旋風脚のような」と形容すれば、どんな蹴り技なのかはすぐに伝わります。これはゲームやアニメの知識を持たない人には伝わらない、という難点があります。

3つは、登場するキャラクターの造形を深めること。「○○流合気道」であったり、日頃の所作で正座をさせたり、袴をはかせてみたり、オリジナルの必殺技を修行させてみたり。いざというシーンで必殺技を出した時に、読者が「ああ、あれだ!」と思えるように、地道に伏線を貼っておくんですね。これは準備に時間がかかるという難点があります。

4つは、比喩を使うことです。「まるで独楽のように回転する逆立ちした身体から、扇風機のように繰り出される蹴り」とすればスピニングバードキックも、いくぶんかは描写が楽になります。これは比喩なので、成功する場合と失敗する場合がはっきりしているのが難点です。

 

4.その女は、最強なのか?

長い前置きが続きました。

バージルさんの作品である『その女、最強につき』の醍醐味であるアクションシーンはどのように描写されているのか。リアリティを大事にしつつも、ハリウッドのような豪快なアクションシーンが展開されています。上述の分類だと、2や4の手法が中心になっていました。

その分――作家さんご自身も自覚されているように――描写が長くなる傾向があります。これはテンポの良さを求める読み手にとってはハードルになるかもしれません。

これは逆から言えば、丁寧に描写しようとする、アクションシーンを大切にしようとする作者さんの態度のあらわれであり、よそから借りてきた比喩を用いない店で、自分のオリジナルを打ち出そうという気概の表現でもあると、じんたねは思っています。

 

必殺技はオリジナルが読みたい。

 

某漫画ではないですが、目にも留まらぬ、反撃も倒れることも許さない連続攻撃なんて表現だけじゃなくて、それに「煉獄」という必殺技名が欲しい。一撃必殺なら「金剛」っていう名前がかっこいい。単なる体当たり転ばし技じゃなくて「ト辻」って言って欲しい。

まだ本作品には必殺技らしきものは見当たりませんが、主人公とライバルとの緊張関係は徐々に高まってきています。

雌雄を決する勝負には、おそらく必殺技の応酬が展開されるのではないかと思っています。そのための布石として、丁寧なアクションシーンがあるのだとすれば、今後の展開が気になります。

その決戦に向けて、蓄積されていった丁寧な描写が、活かされる。まさに3の手法がとられるのではないかと、じんたねは睨んでいます。ライバルとの切磋琢磨、そして勝利勝利ののちは、新たなる敵に向けて、力を合わせて、必殺技を繰り出していく。挫折をしながらも、その敵に勝利してのハッピーエンド。

そのとき主人公の鷲峰恋火は、最強となるのでしょう。

蛇足ですが、作中のルビの振り方が独特であったり、意外にも会話文が中心の描写であったりします。この辺も、本作品の別の魅力となっています。こちらもぜひ、読みながら発見してみてください。

(文責:じんたね)