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ライトノベルは斜め上から(23)――『悪誉れの乙女と英雄葬の騎士:躯の船を守る竜』

ライトノベルは斜め上から

こんばんは、じんたねです。

本日2回目の更新は、コチラ!

悪誉れの乙女と英雄葬の騎士 骸の船を護る竜 (ビーズログ文庫)

悪誉れの乙女と英雄葬の騎士 骸の船を護る竜 (ビーズログ文庫)

 

 

  

解題――目的志向と関係志向

 

 

1.作品概要

次なる指令(ミッション)は【幽霊船】討伐――!?

海賊姫×邪道騎士が、今度は共同生活で衝突(コンフリクト)!!

 

極悪騎士アドルフと不本意ながら(?)も共闘し、『船長試験』に合格した海賊の娘クレア。

だが、そんな彼女に与えられた船は、父船長ですら手を焼く問題児ばかり!!

そんな折、シェランド国海域では【近づくと死ぬ】と噂の幽霊船が出没。

密かに討伐の命を受けていたアドルフと、無理やり問題児集団の船に乗り込んだクレアは、

彼と同室生活を送りつつ幽霊船の出現を待つが……!?

 

 

2.いい男だけいればいい

本作品、海賊の娘さんが主人公になります。彼女の父親は偉大な海賊であり、その娘として活躍する。その活躍を支えているのが、口が悪く心配症で超絶イケメンな騎士。いい、ほんと、いい・・・!

 

それどころか何だか、他のいい男に迫られたり、騎士様に困ったときは支えられたり、たしなめられたり、甘やかされたりと、なんて気持ちいいんだ・・・俺もそうなりたかったんだよ。普段はハーレムラブコメ読んでるから、女の子も大好きだけど、いい男だってそりゃ好きだよ・・・悪いかよ・・・

 

そんな気持ちにどっぷり浸りながら、海賊として活躍する主人公に、ずぶずぶ感情移入。気づけばいつのまにか読み終えていました。

 

 

3.男向け/女向け

このタイトルで論じるのは、ジェンダーを踏まえていないとお叱りを受けるでしょうし、私自身、厚顔無恥であると思います。ただ、ほかに適切な表現を思い付かず、ここでは、この用語を用いさせてください。

 

本題に入ります。

 

本作品のメインターゲットはおそらく女性ですライトノベルといえば、おおむね男性向けのものであり、女性向けのものをライトノベルと称するのは、いささか抵抗感がありますが、それはいいとしましょう。

 

作品の内容を読めば、それは一目瞭然です。

 

まず主人公。某有名海賊マンガにあるように、海賊王になりたいだとか、お宝を見つけるだとかいう目的を持ちません。もちろん作中では、海賊として独り立ちしたいとこぼしていますが、それへ向けて積極的に動いている風にも見えません。ライバルやモンスターとのチャンバラも、ほぼありません。

 

物語のラストパート。とある男性クルーを仲間にし「次は何をする?」と問われ、その答えに窮していることが、とても象徴的です。彼女にとって、海賊になるということは海賊王やお宝さがしといった目的とは結びついておらず、何をするという行動に直結していないことを示唆しているためです。

 

じゃあ、無目的に海賊になるの?――そうじゃありません。

 

彼女の生い立ちにその隠れた動機はあるのですが(ネタバレすぎるのでここは割愛)、そこから導き出されるのは、(広義の意味での)他者とのやり取り。正確に言い直せば、お互いの感情の機微を理解し合い、受け止め合う関係を構築すること。それが目的であり、海賊になることは手段でしかありません

 

これは男性向けライトノベルと、極めて好対照です。

 

男性向けのものでは、アクションや敵が味方になって、自分を誉めそやす。あと綺麗な女性陣が、やたらエッチで絡んでくる。これが快楽原則です。主人公には目的があり、それを貫くためにライバルとのいさかいは避けられない、でも、いずれ拳で語り合った強敵(とも)は、仲間になってくれ、自分の目的を支持するようになる。

 

まとめてしまえば、男性向けと呼ばれる作品は、目的志向なのです。

 

ライバルや障害が、どのように自分の目的にそぐわず、なぜ障害となるのか。その説明に紙面は割かれ、最終的にバトルにつながる。これが基本線です。だからもし、主人公が目的をもたず、他者との関係づくりに奔走するとすれば、あまり好意的に読まれないでしょう。

 

逆に、女性向けのものは、これという明確な目的のために、他人を排除すること、バトルすることをよしとしません。敵/見方、というシンプルなロジックそのものに乗らない。いがみ合うとすれば、どう和解や共感に持ち込めるのか。政治や経済といった大上段から構えるのではなく、日々の言葉遣いややり取りから、どう影響を与え合うかを、仔細に描写する。

 

本作品でも、掃除をしようとしたり、敵対する相手を仲間にしようと、カードゲームを持ちかけたりします。ゲームの勝敗に応じて、仲間になる/ならない、ということはない。お互いに話し合うための自由時間を設けろ、と要求しています。

 

つまり、女性向けと呼ばれる作品は、関係志向です。

 

 

4.強いとはどういうことか

この「強いとはどういうことか」という言葉が、作品のドラマにつながっています。キャラクターたちが、その意味を自問自答し、各人で考えていこうとする。

 

ここにも目的志向、関係志向の差異を読み取ることができます。

 

主人公をとりまく男性キャラクターたちは、各々の持論を展開します。必ず、主人公に向けて、「俺は~と思う」と言う風に、考え方を提示しています。そのどれもが、他者と関係する事で、守るべき存在があることで、弱くなってしまうという趣旨のものばかりでした。

 

反対に、主人公は、とあるシーンでこう言い放ちます。

 

「あなたが強くても、弱くても、私には関係ない(203ページ)

 

そうなんです。彼女にとって強いとはどういうことか、という問いは意味を持っていないのです。じゃあ、何が意味を持つのか。引用文にあるように「関係」を持つ他者が意味をもつ。登場する敵が強いのか弱いのか、バトルで勝ち伏せるのかどうか。それは視野にない。その他者と、どのような関係を築けるのか。それこそが彼女にとって問うべき課題であり、その行動原理です。

 

だからこそ。そんな主人公の関係づくりに巻き込まれ、それを支える男性陣たちが、私には快哉を叫ばざるを得ないほど、心地よい。ライバルと切磋琢磨して、誰が一番強いのかをハッキリさせてもいいけれど、良好な関係づくりだって大事なことだから。

 

流麗で比喩がふんだんに用いられた文体とも相まって、日々、関係を作っていくことへの関心が、本作品を貫いているのです。

 

ここからは勘繰りですが、おそらく男性向けライトノベルを読まれる方には、主人公の意思のなさが目に付くかもしれません。仲間を信頼するという行為において、いきなり態度を180度変えることがあったりします。

 

ですが、それは関係志向という視座からみれば、そうではない。

 

主人公にとって、豊かな関係こそが大事であり、そのために機能しない大義名分を掲げるよりは、柔軟に動いたほうがいいことがある。堅い樹木が折れてしまうのに対して、竹や柳が折れないという比喩は有名ですが、目的志向・関係志向についても、おなじ対比が当てはまるでしょう。

 

堅ければカッコイイ。堅ければ強い。

同時に、そのストレスも強く、堅くあり続けることは難しい。

 

柔軟であれば豊かになる。柔軟であれば、次につながる。

同時に、その方向性も柔軟であり、どこに行くべきかを決めることは難しい。

 

本作品は、関係志向のライトノベルとして読まれるべきなのです。

 

 

5.おわりに――イケメンという言葉

私、さきほどイケメンという言葉を使いましたが、これは中々にやっかいな言葉です。私も若い頃は(今も若いよ・・・?)、見目麗しい男子が好きだったりしました。いっちょ前にアイドルの名前なんか覚えたりしちゃったり。

 

イケメンという言葉は、そういう見た目を指す場合もあるのですが、関係志向の話をしったのなら、別の意味にも気づくでしょう。

 

そう、私との関係を豊かにしてくれる、感情の上下をいなし、受け止め、からかい、ともに笑い、泣き、そうやって過ごしてくれる人をイケメンとも呼びます

 

・・・いいよね、イケメン。少女のぱんつを脱がせるライトノベルを書く俺の横で、料理を作って欲しかった。

(文責:じんたね)

 

追記:本作品、読み終えて気づいたのですが、2巻でした。また巻数を間違えちまったよ。

 

 

次回作はこちらになります。

www.pixiv.net