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ライトノベルは斜め上から(27)――『美少年探偵団』その2

ライトノベルは斜め上から

こんにちは、じんたねです。

前回、以下の作品をとりあげましたが、「具体的なキャラクターの話をしてよ」と言われたので、補足的に書きます。

 

 

基本線は、前回のウォーホール的である、という立場のままです。本作品には、多くのキャラクターが登場するのですが、それらをまとめる主人公に注目して、今日のお話にしようと思います。

jintanenoki.hatenablog.com

 

 

1.主人公は謎めいている

本作品(に限らず)、主人公は多くを語りません。物語の冒頭では、「なんでこんなこと言うの?」というモノローグや仕草がまぜられていて、それが話の後半やラストに向けて、明らかになります。それは多くの場合「異能」とも呼べるもので、実はできるヤツだけど、それを隠している、というパターンをとります。

 

主人公はのび太である理論、から考えましょう。

 

物語の2つの作り方として、主人公を無能にするか、あるいは有能にするかのパターンに大別できるという話です。そして最近は、のび太のパターンが多い。つまり無能なんですね。もちろんこんなに簡単には分けられませんが、分析のための概念というのは、シンプルなほうが分かりやすいから、2つに分けられています。

 

さて、本作品はどうかといえば、明らかにのび太探偵団の事件解決にさいして、(物語の途中までは)まったくもって無能です。なすがままなされるがまま。主人公は何もしません。それは周囲の外連味のあるキャラクターたちを浮かび上がらせるための手法でもあります。

 

みんなが強いと、どう強いのか分からないけれど、主人公が弱いと、みんながどう強いのか分かる。違う言い方をすれば、ワトソン君という一般人がいるから、ホームズというすごキャラのすごさが分かる。

 

で、それを物語の途中でひっくり返して、のび太からジャイアンへと昇格させています。

 

主人公もまた少年探偵団に相応しい、「異能」の持ち主であることが判明し始めた頃から、ストーリーはその「異能」を基軸に移し始めます。読まれれば気づくかと思いますが、その頃から、探偵団のキャラは薄くなります。

 

いや、薄く感じられるようになります。これは新しいライバルの登場によって、主人公が覚醒しなければならないというプロットのお約束を、丁寧に抑えているからこそ、なのですが、そうしてのび太ジャイアンの両方を味わえるように、西尾さんの作品は作られていることが多い。エンターテイメントの鑑と言ってもいいかもしれません。

 

 

2.主人公は何を考えているのか

のび太としてひとまずは登場する主人公ですが、その性格にも特徴があります。ウォーホール的、と言えます。

 

最初に結論から言ってしまいましょう――主人公は、周囲に溶け込もうとするよりも、周囲で起きている事態を、一方上から俯瞰しようとばかりする。それは端的に、モノローグの言葉遣いにあらわれている。

 

今回も具体的に書きましょう。

 

 駄目だ。無駄って言うか、駄目だ。(84ページ)

 

これは探偵団のとある提案に対して、主人公が言葉にすることなく、心の中で評価している場面です。駄目と無駄という「駄」が共通している単語を並べて、言葉遊びをしつつ、彼らを俯瞰していることが分かります。無駄というよりも、もっとマイナスの提案だから、それは駄目だ、と。

 

他にも、こういった記述がチラホラと散見されます。相手の言っていることを単語1つでまとめ、「というよりは○○だ」と、言葉遊びで言い換える。そして言い換えられた方が、理に適っている。常にメタ視点にあろうとして、そこから一歩を踏み込まない。ベタベタな関係を作ろうとしない。これが主人公の行動のロジックになっています。

 

それは逆から言えば、感情や思考をダイレクトに共有しようとすることに、強い抵抗感を持っていることの言い換えでもあります。

 

 恥ずかしい。

 つーかダサい。

 男の子の前で泣いてしまうなんて。(73ページ)

  

泣いている理由を主人公は――いい理由で泣いているのに――誤魔化そうとします。私自身、この箇所を読んでいて「えー、ちゃんと言えばいいじゃん」と主人公にツッコミを入れました。どうして距離とるんだよお前って。

 

ウォーホール的です。コマーシャリズムに流れる、情報の断片群をリミックスし、そこに表層的にしかかかわろうとしない。メタ視点に立脚したまま、ベタに入ろうとしない。この傾向は、西尾維新作品に限らず、同時代の多くの作品の基調になっているように思いますが、その辺まで話を進めると、もう文学論書けよって話になりますので、割愛。

 

まとまりがありませんが、とりあえずはここまでにします。

次回作はコチラでーすよ。

All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)

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