ライトノベルは斜め上から(38)――『L.A.T. 急襲!松北高校法律相談部①』
こんばんわ、じんたねです。
日本酒の飲み過ぎで、もう、べろんべろんです。
さて本日のお題はこちらです。
L.A.T. 急襲!松北高校法律相談部 (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
- 作者: 鹿園寺平太,ぺけ
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2014/07/03
- メディア: 文庫
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解題――リーガルマインド・アグレッション・テキスト(LAT)
1.作品概要
私たちはLeagal Assult Team=L.A.T.
単なる法律相談部ではありません。私たちの周りに存在する法的問題と正面から戦う集団よ!
平凡な高校生活を送るはずだった団藤法助は、ソーシャルゲームに嵌って親のクレジットカードを遣い込んでしまったばっかりに、校内でもヤバイと噂の法律相談部(LAT)に関わってしまう。
LATは法律相談部として登録されているが、その実態は法律を武器に戦う変人集団だった!
不当利得の返還、未成年者の行為取消、即時取得・・・でも多分中身は高校生の部活ラブコメです。
2.法律をテーマにした異色のライトノベル
職業モノというジャンルがありますが、本作品は、法律をテーマに扱っています。法律といえば、身近なところでいえば道路交通法に始まり、民法、刑法、などなどいろいろとあり、大学の法律学概論を受講しているような、そんな気持ちを懐かしく感じました。
作品の舞台は、島根県松江市ということで「どんだけローカルなんだよ!」ってツッコミを入れずにはおれませんでした。以前、出張の関係で何度か足を運んだことがあるのですけれど、本当によく雰囲気を再現している。松江あるあるネタがゴロゴロしている。本当に松江好きなんだね・・・鳥取県にチクるぞ。
ええと、話がそれました。戻します。
本作品の舞台は、高校であり、そこで法律について学び実践する、いわゆるSOS団よろしく謎の部活動が、主軸になっています。彼ら彼女らは高校生という立場ではありますが、やっていることや目指していることは、ほぼ現実世界の弁護士だと言えるでしょう。
さて、特定のジャンルモノを扱うに際して、一番の躓きの石でありながら、一番の醍醐味でもあるのが、「どこまでその専門性を反映させるか」という古くて新しい問題です。
以前、『りゅうおうのおしごと!』というライトノベルについて触れたときに述べましたが、専門性が高過ぎると一般的な読者には理解されませんし、理解されるべく文字数を割いたとしても、それについてゆく気力を呼び起こしにくくなってしまいます。
かといって反対に、あまりにも簡単にしてしまうと、その職業ならではの面白さが減ってしまいます。ディテールを欠いた描写だけだと、読んでてもピンとこないというか、「へえ、それで?」という気分にさせてしまう危険性がある。
ここでバランスをとればいい、と考えるのは悪手でしょう。もっとも面白くない職業モノを書いてしまう危険性があるからです。中間をとるというのは、一見すると大人の判断で一番妥当な気もしますが、裏からいえば、どちらの立場から見てもつまらない作品になるということでもあります。一般的な読者には読みにくいわりに、専門性がなくてつまらない。
だからひとまずは、どちらかに針を振り切ってしまって、正反対の極をどれだけ拾うことができるかと考えるのがいいと、私自身は考えています。そこの矛盾に身を晒して、ぐぬぬと汗をかいたぶんだけ、面白い作品になるというのは、おそらくあながち間違ってはいないのではないかと。(ここはじんたねの主観なので、異論反論は大いにあるのだろうとは思っているのですが、ひとまずはそういう前提で話を進めさせてください)
で、本作品はどうかというと、明らかに専門性の側に針が振り切っている。かなり噛み砕いて説明してくれていますが、その筆致が専門的知識に価値をおいていることは一目瞭然です。
3.法律を支えるのは人
では、読みにくくつまらないのかといえば、まったくそんなことはない。きわめて、有益なライトノベルです。
専門的知識に価値を置いている。さきほどそう言いましたが、ちょっと語弊のある表現です。もっと正確に言い直すと、私たちが法律というものをどう見るべきか。法律がどのように機能しているものなのか(憲法をのぞいて)。それを弁護士の視点から、幾重にもキャラを変えて、説得的に主張しています。
ざっくりと言ってしまえば(ざっくり言っちゃいけないですけど)、作者の法律観――リーガルマインド――が、作品の全面に出ている。この引用文が、端的にそれを示しています。
「それに、法令上の問題だけじゃない。無責任に相談に興じてる間はいいが、当事者の争いに巻き込まれるってことは、他人の人生に関わるってことだ。説得だ交渉だと感嘆に言ってるが、要は人格と人格のぶつかり合いだ。お前らの判断がひょっとしたら当事者の人生をひっくり返すかもしれない。しかしお前らは責任を取れる立場にない。……そこを理解してやらないと、必ず失敗する。他人にも迷惑をかける。そういうことをよく考えておけよと、俺は言いたいわけ」(203ページ)
規則的に適応して、それで終わり。ということでは全然まったくない。法律は言葉であり、言葉は解釈であり、解釈は未来に開かれている。未来に開かれているからといって、おのずから法律が変化していくことはない。その扉を開いて奮闘するのは、いつの時代も、その時代に生きている人間たちの生々しい実践にある。そこで汗をかき、血を流して、涙しろ――かなりマイルドに書かれてはいますが、突き詰めれば、それが法律なのだと、その実践に身を投じるのが弁護士なのだと、主張されています。
4.ライトノベル=ライトなノベル?
言いたいことが真正面に据えられていて、私個人は、とてもおもしろく読みました。言いたいことが、かなり事前に練られていないと、書き手にとっても主題というものは見えてこない。書きながら考え、考えながら書き続ける。たんに物語を収束させること、あるいはエンターテイメントとして追求すること、それらだけを考えていては、この優れた筆致にはならないでしょう。
ここは好みが分かれると思います。
人によっては重たさとして感じられるからです。つまりライトではない。これは文体や分量を変えたところで、根本的には消えない重たさでしょう。言いたいことが込められているということは、それと意見をことにする人にとっては、必ず、抵抗感をもたらすからです。
言いたいことから書かれたライトノベルがある、というのはだからとても珍しい。いや、こう言うべきでした。自分の言いたいことを、かなり言語化したうえで作品に落とし込んでいる作品は珍しい、と。このこと自体に、大きな価値があると思っています。
そして身近でありながら遠い、法律をテーマにしてくれている。読みながらリーガルマインドを理解するには、とてもいい。とてもいい(大事なことなので2回書きました)。
5.おわりに
本作品、現在では2巻まで出版されております。個人的には、言いたいこと先行型のライトノベルがもっとあったっていいと思っています。きっと書き続けることで、作者の意識も先鋭化し、さらに面白いものが生み出せるようになる。そんな期待を抱きながら、じんわりとした読後感を味わいました。
・・・鹿園寺先生、もっと書き続けてもいいのよ?
(文責:じんたね)
さて、次回作はコチラ!