ライトノベルは斜め上から(29)――『ミミズクと夜の王』

こんばんは、じんたねです。

もうすでに眠たいです・・・。

 

さて、本日のお題はコチラ! 

 

 

解題――語るに落ちない

 

 

1.作品概要

魔物のはびこる夜の森に、一人の少女が訪れる。額には「332」の焼き印、両手両足には外されることのない鎖、自らをミミズクと名乗る少女は、美しき魔物の王にその身を差し出す。願いはたった、一つだけ。「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王。全ての始まりは、美しい月夜だった。―それは、絶望の果てからはじまる小さな少女の崩壊と再生の物語。第13回電撃小説大賞「大賞」受賞作、登場。

 

 

2.絵本の世界

背景や詳細な設定がほとんどありません。むかしむかしあるところに、という語りだしで始まっても違和感がまったくない。かつてどこかにいた娘が、人間になるというプロットラインは、絵本やおとぎ話を連想させます

 

無駄がないだけに、静か静かなだけに音がする音がするだけで心地いい。読みながら、ずうっと静謐な空間へと沈み込んでいくような、そんな気持ちになります。

 

絵本のような世界観だとしても、これは絵本のようにイラストがほとんど使われていない。イラストが使われないことが、読者の想像力を駆動させ、その魅力を引き出していることに一役買っている。

 

 

3.設定のむつかしさ

こういった作品を読むにつけて、設定が何のために必要なのかということを、考えさせられます。もちろん、結論から言ってしまえば、伝えたいことを伝えるために過少・過剰にならないものが求められる、ということにはなります。

 

「過剰・過少にならない」――言うは易し行うは難しの典型例のようなものです。

 

自分が伝えたいことを、あらかじめ明確にしていることが必要になりますが、それは多くの場合、語りだしてしまってから、あとから追いかけ気づき反省しながら、それは自覚化されます。別段、小説に限った話ではない。やりたいことが最初から明確にある、というのはかなり珍しいケースでしょう。運がいい、あるいは、それまでに試行錯誤を積み重ねてきた、という事でもない限り、普通は、最初から伝えたいことなんてハッキリしていません。

 

文章に無駄がない。設定に不必要なものがない、というのは読んでいて本当に心地よい。

 

寸分たがわぬ切れ味、と言えばいいのでしょうか。機能美といえばいいのでしょうか。そんな練りに寝られたものを読むと、こちらの贅肉まで落ちてしまうような気分になります。本作品は、その意味で、とても気持ちがいい内容になっています。

 

 

4.人間に「なる」というテーマ

無駄がなく、背景や設定について多くを語らないので、さまざまな解釈が可能なのですが、おそらくおおむね的を射ていると思われますが、本作品は、人間に「なる」というテーマを扱っているのではないでしょうか

 

主人公の女の子は、奴隷として育ち、およそ人間らしい扱いを受けずに育ってきます。そんな彼女が最初に受け入れられたのば夜の王という魔物の住まう場所。そこですくすくと育って、と言う風にはもちろんなりません。すったもんだがあって、いったんは人間の手に引き取られます。そこでしばらく人間らしい振る舞いを身につけ、そしてそのまますくすくと育って、という風にはもちろんなりません。また一悶着あって、彼女は夜の王のもとへと帰っていきます。

 

所属する場所で考えれば、彼女は「魔物→人間→魔物」と、どちらかといえば人間になるというより魔物に近づく風にも見えます。

 

ですが彼女が『ありがとう』という言葉を覚え、涙したり、人間らしい言葉遣いを発揮するのは、なによりも魔物のもとで、なのです。

 

どうしてか。

 

それは人間に「なる」という現象が、教育=想起、という扱いになっているからです。言い換えれば、彼女はもともと人間だったにもかかわらず、人間としてあれなかった=奴隷でしかなかった、状態にあった。

 

それが人間のもとを離れ、魔物と一緒にいることで、自分が人間であったことを思い出し始める。それから、しばらく人間のもとに引き取られている間、再び、彼女から人間であることが忘却させられてしまう。人間の間にありながら人間であることを忘れるという、よく考えれば、かなりシニカルな状況が描かれます。

 

そして最後に、夜の王のところへ戻る決意をしたとき、一緒に居たい人といるという、極めて人間らしい感情を、自分のなかに認めるようになるのです。ストーリーの要所要所で、彼女をモチベイトするのは、失われてしまった過去の記憶の想起&再解釈、なのも示唆的です。

 

幼女×人外、というよくあるモチーフと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、人間であることを強調するのに最も効果的な方法は、人間でないことを対比させることです。その対比が、きわめて効果的に使われています。こう言ってよければ、本作品最大の魅力のひとつは、人間中心主義にあるでしょう。

 

私だったらこう描く、という人間観がそこにはありました。その意味で、じんたねにとっては、いたく静謐かつ刺激的な小説です。かまびすしい毎日に疲れたかたには、おススメの一冊です

(文責:じんたね)

 

次回はコチラを予定しています。

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