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ライトノベルは斜め上から(46)--『カラクリ荘の異人たち~もしくは賽河原町奇談~』

ライトノベルは斜め上から

こんばんは、じんたねです。

明日は出張だよ! やったね!

 

・・・さて、本日のお題はコチラです。

カラクリ荘の異人たち?もしくは賽河原町奇談? (GA文庫 し 3-1)

カラクリ荘の異人たち?もしくは賽河原町奇談? (GA文庫 し 3-1)

 

 

 

解題――見よ、これが英断しないことの矜持だ

 

 

1.作品紹介

異世界へ行く方法を尋ねられ「車か電車で行けば?」と答えた太一に、クラスメイトの采奈は「そんなのつまらないし、安易すぎ」と言った。しかし、下宿することになった空栗荘へ向かうため彼が賽河原町でバスを降りると、そこは人でなく魚人やムジナ、のっぺらぼうに、喋るカラス―etcたちが行き交う、妖怪たちの住む町だったのだ。おまけにたどり着いた空栗荘は、人間とはいえ一癖も二癖もあるような住人たちばかり…。そんな「あちらとこちら」が混じり合う場所で新生活を始めた太一に巻き起こる、不可思議な出来事の数々とは?賽河原町奇談開幕。

 

 

2.緩やかな起伏

本作品は、一言でいえば、和風奇譚でしょう。あるとき日常と非日常の境界を越えた主人公が、妖怪や化け物といった「こちら」の世界ではない「あちら」の世界の住人のいる場所に登場します。その世界の境目にあるカラクリ荘と呼ばれる場所で一人暮らしを初めて、人間のような、そうでもないような、とにかく様々な不思議なキャラクターたちとの生活を始めるというものです。

 

派手に切った張った。異世界でドタバタ。といった展開はなく、どちらかといえば静かなプロットになっています。1巻で回収されない伏線も山盛りで、スピードではなく、緻密さで勝負するタイプの作品だと思います。

 

絵柄なども水彩画のタッチが淡い雰囲気を上手に表現していて、これまた素晴らしい。ただ、ヒロインがサービスシーンを提供してくれません。浴衣を着て、お盆に一緒にあるくくらいです。なんでだよ!!! いや、それでも十分なご褒美だけど、いや、よく脱ぐ作品ばっかり読んでる俺が悪いんだ・・・。

 

 

3.鋭角な人間観

とはいえ、その緩さは、本作品にとって、ほぼ必然のものです。この緩やかさがなければ、描かれているキャラクターたちをうまくいかすことができないから。それは、驚くほど鋭い人間観に反映されています。一番象徴的なのは次の台詞でしょう。これは主人公と同じカラクリ荘に住まう、変人の部類に属している、「ミヨシ」と「十遠見」を評した言葉のやりとりです。

 

「でも俺、ミヨシさんや十遠見さんみたいな特別な人たちと違って、お化けや妖怪が出てきても何もできないし」

(中略)

「ミヨシ君も十遠見さんも、『特別』なんかじゃないですよ。彼らは普通の人間です。そんな言葉で彼らとの間に線を引かないでください」(201-202ページ)

 

 

本作品の構図は「あちら」と「こちら」。そしてその境界線にいる主人公たち、というものです。この分類の厳密さとその使い分けは、作中においても徹底しています。あやふやな世界観で、ここを紛らわせることが決してない

 

どうしてか。

 

それはおそらく、本作品が、境界に住まうこと、もっといえばどちらの世界でもマジョリティ・世界ではない――「境界人」(G.ジンメル)の物語として書かれているからです。そんなどちらの世界にも居場所のない人たちの、したたかで平和で悲しく優しい姿を、描き出そうとしている。

 

境界人を描き出すには、その境界のエッジを――物語のさしあたって序盤では――強調する必要があるから、本作品は、ゆるいストーリー展開であるにもかかわらず、設定にブレが発生し得ません。

 

そして境界人であることを克服するのではなく、その淡いに佇み続けること。それがおそらく、一歩踏み込んだ、本作品のテーマでしょう。

 

今の2つに分かれた世界に白黒をつけて、どちらかが克服して、主人公が幸せになる。これはよくある冒険活劇ですし、今も、主流を占めているでしょう。ですがそれは、とどまることの正義を説きません。敢えて変化しない。じっとする。それに意味があることを、語ってはいません。そういう意味では、本作品、マイナーな作品ともいえます。しかし、マイナーだからといって語られる意味がないということではない。むしろ、こういった作品があり続けることが、意味がある

 

白黒が簡単につかないことを、ちゃんと白黒がつかないと認めることは、実はとても難しいことです。簡単な答えや逃げ道に走るのが人間ですし、物語の落としどころとして、そういったものを持ってくることもできます(あれ、心が痛いぞ・・・)。

 

おそらくですが、本作品は巻数が進んでも、主人公は成長しないでしょうし、境界に居続けることの意味を、ずっと描き続けると思います。そうあって欲しい。じんたねは思います。

 

とてもいい雑貨店を見つけたような、そんな読後感でした。こちらの作品も全力でおススメです。世の中との距離感に折り合いをつけられない、あるいはつける必要があるのか。そんなことを一度でも考えたことのある方は、必読のライトノベルです。

(文責:じんたね)

 

さて、次回作はコチラになります。

銀糸の魔法式1 魔法使いの実習生 (講談社ラノベ文庫)

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