ライトノベルは斜め上から(45)――『天命の書板』

こんばんは、じんたねです。

ソシャゲは時間がないと、睡眠時間を削るコトになりますね。えへへ、楽しいなぁ。ふわっふわする。

 

さて、本日注目するのはコチラになります!

天命の書板 不死の契約者 (一迅社文庫)

天命の書板 不死の契約者 (一迅社文庫)

 

 

 

解題――少年よ神話になれ

 

 

1.作品概要

世界に『天命の書板』の欠片と、それを身に宿す特殊な能力者が生まれておよそ三十年。巨大学園・霧の学舎へやってきた八坂韻之介は書板使いに襲われている女性を助けようとして、瀕死の重傷を負ってしまう。死の淵にあった韻之介を救ったのは、みずからを『天命の書板』の管理者にして、万物産みし大地の母神と語る謎の幼女・ティアだった。ティアの契約者となった韻之介は普通科から書板科へ編入され、キングー同士の戦いへ身を投じることになるのだったが―。書板の欠片をめぐり争う学園異能バトル開幕!

 

 

2.ライトノベルの完成形

――うおいちくしょう、面白いな!

 

これが初読直後の感想でした。とても面白い。本当によく出来ている。こんなの俺も書きたかったんだよ、って臍を噛むような気持ちになりました。

 

本作品には、90年代から00年代にかけて完成していったライトノベルらしい設定というか、その理想形がかたちとして受け継がれています。

 

・無気力系だけれど訳ありな主人公の成長物語。

・幼馴染でツンデレでありながら、ストーリーで足を引っ張ったり助けたりして、それでも主人公との元鞘に収まるヒロイン。

・突如、空から降ってくる謎をかかえた美少女(難あり)が、主人公の日常を引っ掻き回しながら、その異能を駆使する。

・彼らの活劇を見守る大人たちとそれを妨害する大人たちの政治的背景。そして神話などに見られる世界設定をうまくトレースして、アレンジする舞台。

・ライバルとの戦いや異能を駆使して、最後にはハッピーエンド・・・だけれど2巻以降にもつなげられる展開。

 

私がまず連想したのは、とあるシリーズの作品であったりしますが、本作品のほうが個人的には面白かった。他作品には見られない、メソポタミアの神話をベースにしたアレンジも妙味となっていますし、細かい伏線の張り方や回収の仕方も、とてもスマートでした。書写(模写)してプロットや文字数の流れをつかむのにも、大変、有益なライトノベルです。

 

最近、このブログを書くようになって、いろんな作品を読んでいますが、こういう素晴らしい作品が多いので本当に腹が立ちますね。悔しい。くそ、くそう・・・!! あともっと売れろ! 2巻と3巻はよ! 一迅社さまお願いします!

 

 

3.背景としての世界観

さきほど、私は90年代から00年代の、という枕詞を用いました。現在は2015年であり、すでにライトノベル全盛の頃から、10年以上が経過しています。本作品は、そのころの雰囲気をよく体現しているのですが、その雰囲気の正体というのは、一言でいって世界観にあります。

 

本作品は神話の世界観をモチーフにしています。神話の定義にはいろいろありますが、ここでは昔から人々に語りづがれてきた、世の中の出来事を解釈する指針を与え続けてきたもの、くらいにしておきます。

 

たとえば雷。

 

これは科学的知識がなければ、一体、なんでどうして何のために発生しているのかわかりません。それに当たらないように怯えたりしながら過ごすばかりです。ですがここに神話という物語があって、「これは神様が怒っているからだ」という理由を与えたとします

 

そうなれば恐怖心はともかくとして、それに意味を見出すことができます意味が見出されば、それに対する出方も定まります。怒りを鎮めるためにお供え物をしようか、それともひたすら耐え忍ぶか。どっちにしてもただ雷に恐れおののき、受動的なままでいたこととは、比べ物になりません。

 

そうやって意味を与え続けてきたのが神話。

 

だとすれば、神話には何年もの使用に耐えてきた、いわば強度があります。ちょっとやそっとでは疑ったり飽きられたりしないような、物語のいわば原液のようなものが凝縮されています。ちなみに現在では、科学が私たちの神話になっているのでしょうが、その辺は省略。

 

さてはて、やっと話が元に戻ります。新しく物語を語りだすとき、背景として神話のような超濃ゆいものを参照すると、飛躍的に重みと説得力が生まれます。今の異世界作品も、もとをたどればRPG的なリアリズムですし、それもたどれば神話になります。

 

ただし、最近のライトノベル――といっても読んだ冊数には限りがあるので、あくまでもじんたねの経験則の範囲内――では、そういった重厚な世界観は忌避される傾向にありますポストモダンという言葉が、その状況を簡単に説明しますが、おおむね間違いではないと思います。すなわち、軽妙であり、奥行きを感じさせない作風が主流のような気がしています。

 

ライトノベルやソシャゲを元ネタにしたライトノベルが生まれてくるのも、そこまでの世界観を必要としていないという判断からだというのが、私の解釈です。

 

誤解されないように付け加えますが、重厚であればOK、軽妙であればNG、という話ではありません。どちらもそれ自体スタイルですから、善し悪しを判定する材料にはなり得ません。

 

本作品は、その背景にある世界観が、これでもかとドーンと盛り込まれています。おそらく、これに理由を求めるのは、大変野暮なのですが(そして実際、野暮だと自覚しながら)、その辺のことを、主人公の性格から述べてみたいと思っています。

 

 

4.ダウナー系主人公は共感できない

本作品の主人公は、いわゆる無気力系の冴えない男子系譜に属しています。そして周囲の美女に騒がれるというところまでワンセットです。

 

さきほど、彼には陰があると言いましたが、その設定がきわどい

 

彼は、他人に共感できない性格です。これは空気を読むのがヘタであったり、あるいは感情移入に偏りがあるといったことでは、まったくありません。どれほど親しい存在、たとえば両親との死別を経験しても、まったく悲しくない、ということになっています。この性格をある程度カギにしつつ、後半は盛り上がっていくのですが、根本的なところは変化していないので2巻への伏線ということにもなっています。

 

主人公は共感できない自分の性格を、心から悩んでいる。どうして自分には、他のヒトと同じように共感したり、痛みを分かち合ったりできないのだろうって。

 

この設定を踏まえて読むと、前半部分のサービスシーンや「女の子にもてたい」という理由全開の行動原理が、実は、自分の性格を否定し、一生懸命演技しているという、辛く「哀れ」な姿として見えてきます。

 

ここからは、かなりじんたねの妄想が入っているので、未読のかたはごめんなさい。既読のかたはせせら笑ってください。主人公の彼は、おそらくいつも他人を見ています。他人がどう振舞い、どう考えているのか。その挙動を気にして、そこに溶け込もうと必死でしょう。だって自分は普通でないと自覚していて、そのことを漏らさないのですから。鷹揚でルーズで空気を読んでいるのも、すべて計算の範囲内のはず。実際、作中でも頭の回転がはやい。

 

つまり彼は、いつも世間を見ていて、それをラーニングしようと必死なんだと思います。

 

ここで神話の話が、いきなりつながります。

 

神話というのは、世界に意味を与えるものだと言いました。この世界、実は、他人も含まれています。他人がどういった行動パターンのときに、どう感じていると解釈するのが妥当なのか。これの素地を用意するのも、じつは神話のお仕事だったんですね。

 

小説を読むようになって、人間の機微が見えてきた。この体験をしたひとは多いんじゃないでしょうか。それもそのはずです。遠い昔から、人間がやってきたことを、神話じゃなくて小説でやっているのですから。

 

さてさて、ここで再び主人公のお話。彼は、その意味で、誰よりも強く神話を求めています。自分の他者理解や共感をまぎれもなく強固にしてくれるものとして。それをトレースし内面化することで、きっと「普通」の人間になれるはずだから。

 

そう考えてみると、本作品に登場する、メソポタミアの神々が主人公を取り巻くという構図は、なんともシニカルであり、何とも意味深長です。だって、まさに彼が欲してやまないものを、すでに神様(=神話のキャラクター)が体現化しているのですし。それどころか誰よりも人間的な性格として神様が登場したりします(ティア可愛いよティア可愛いよ)。

 

そして物語のプロットもまた、そこから必然的に定まってきます。すなわち、主人公が神話を取り戻すこと。神話の神々から意味付与する技術を授けられ、そして日常に戻ること。

 

まあ、あんまりにも抽象的な話なので、だいたいのライトノベルにあてはまっちゃいますが、2巻以降は、きっとそんな主人公の成長物語がみられると思っています。

 

・・・だから続きはよ!!!!

(文責:じんたね)

 

次回作はこちらを予定しています。

カラクリ荘の異人たち?もしくは賽河原町奇談? (GA文庫 し 3-1)

カラクリ荘の異人たち?もしくは賽河原町奇談? (GA文庫 し 3-1)