ライトノベルは斜め上から(44)――『はてな☆イリュージョン』

こんばんは、じんたねです。

目・肩・腰が痛いです。

 

この度の作品はコチラ! 挿絵がえろいよ!

 

 

解題――円満な家族像に見ゆるは、遠景の小宇宙

 

 

1.作品概要

中学一年生になったばかりの不知火真は、両親の知り合いの、世界的に有名な奇術師・星里衛に弟子入りするため上京する。子供の時に、星里衛・メイヴ夫妻のショーを見てから、真はずっと奇術師に憧れてきた。夫妻の娘・果菜(あだ名:はてな)とは幼なじみ。東京では、美貌の女怪盗が起こす事件が世間を騒がせていたが、はてなもいるし、不安はなかった。幽霊屋敷と呼ばれる星里家で、執事のジーヴスとメイドのエマに迎えられ、はてなとの再会を果たした真。はてなも大歓迎だったが、真と話がかみ合わず、ついには―!?ラノベ界最大のイリュージョン、開幕!!

 

 

2.To LOVEる

本作品は、ライトノベルというべきか、エロゲというべきか、ラブコメというべきか、矢吹健太郎的というべきか、それらの作品の系譜が丁寧に押さえられていて、まぎれもなくプロの仕事であることが、一目でわかります。

 

性に貪欲でないが無関心でもない主人公に、超がつくほどの美少女幼馴染。一つ屋根の下にくらしながら、日々のイベントをこなし、誤解や理解を重ねながら、じょじょに近しい関係になっていき、ついに・・・という鉄板中の鉄板の展開を踏まえています。

 

文章もとても丁寧で、どのキャラクターが何をしたのかが必ず分かるように書かれてある。誤解されない言葉使いです。当たり前のようですが、誤解なく読ませる文章というのは、難しかったりします。それを難なくしてしまっているのも、本作品の魅力の一つでしょう。

 

 

3.円満な家族像

さて、本作品で注目したいのは、そういったお約束の要素をすべて無視した部分です。その辺であれば、私よりも適切に指摘できるかたがいると思いますから。

 

家族像。これが興味深いものでした。

 

ええと、エロゲといえば、ラブコメあるあるといえば、なのですが。主人公の父親と母親は影が薄いのがお約束です。海外に出張中だったり、よく分からない理由で自宅を空けていたりします。そうさせることで、だだっぴろい私空間を主人公は手に入れることができ、そしてそこに女の子を囲い込むことができるから。楽しいイベントに大人が介入しないですみます。当然です、これが正義で間違いありません

 

本作品も主人公に関しては、たしかに影が薄い。ヒロインの家族についても物語の重要な設定を担ってはいますが、全面に出ているわけではありません。その意味で、とりたてて奇異なことはない。

 

ない、んですけれど。

 

どちらの家族も、とても夫婦仲がよいんです。お互いにお互いを思い合っているし、その関係が崩れるような気配すらない。それだけではありません。お父さんとお母さんは、自分たちの息子と娘を、心から愛している。その愛情にブレはなく、これまた海よりも深く、山よりも高い。

 

どちらの父親・母親もユーモアを介し、当然のことながら美形で、大人の判断もできる。このうえなく、法外なレベルで、理想的な両親像として描かれています。その息子や娘である、主人公やヒロインも、とても伸び伸びとした性格をしている。単独でいれば、きっと事件は起こさないだろう。そう感じさせます。

 

「なんでこんなに完璧なの?」

 

そう思ったんですね、私。もちろんフィクションですから、それはまあ「そういう設定だからじゃない?」というのがベストアンサー。そこに疑問はありません。ただ、エロゲやらラブコメやらの鉄板を踏まえるなら、両親の話はあんまりしない。もしするのなら、目立たないように伏線に利用する、そんなところだと思っています。

 

ですが本作品では、そういったストーリーの役割以上に、家族の「円満さ」が設定され尽しています。非の打ち所がない。

 

 

4.秀麗眉目の小宇宙

どうしてなんだろうかと考え続けて、2日ほど経過してしまいました。今のところ、これじゃないかというのが以下のお話。

 

矢吹健太郎的、と上述しましたが、本作品の世界には、汚点がまったく存在しません。キャラクターたちはみな秀麗眉目であり、性格もよく、悪人も悪人ではない。世界は調和が保たれていて、物語の山場はありますが、事件らしい事件はおきない。

 

「ああ、ここは理想郷なのだ」

 

そう思いました。理想郷には理想しか存在しません。ユートピア、すなわちアン・プレイス=どこにもない場所、ですから。だから欠損や汚点(とされるもの)があっては、理想ではなく現実になってしまう。本作品、読者に対して、完全な娯楽フィクションを提示して、そこで楽しんでもらおうとする、潔癖なまでのエンターテイメント性が宿っている。だから、感情移入を妨げてしまうような、負の側面をもったキャラクターがいない

 

それはさらにキャラクターたちの家族にも及ぶほど。そういう理由で、家族すら完璧に描かれているのではないか。美しい世界に美しい住人が住まう。それは一枚の絵画を眺めているような体験であり、現世から隔世へとジャンプする快感をもたらす。それを体現してるのが、まさに本作品であると思われます。

 

本作品は、ライトノベルの到達点の一つである。そう断言できるでしょう。読者もそうですが書き手にも、本作品の一読をおススメします

(文責:じんたね)

 

次回は、こちらになります。

天命の書板 不死の契約者 (一迅社文庫)

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