ライトノベルは斜め上から(39)――『大陸英雄戦記』

こんばんは、じんたねです!

日本酒おいちい! 日本酒大好き!

 

さて、本日のお題はコチラ。

大陸英雄戦記 1 (アース・スターノベル)

大陸英雄戦記 1 (アース・スターノベル)

 

 

 

解題――ツンデレとは誰をして語らしめるものか

 

 

1.作品概要

 「俺」ことユゼフ・ワレサが現代日本から転生したのは、魔法のある中近世欧州風の世界。

しかも滅亡寸前の小国の農家だった!?

チートも無く、家柄も無く、魔力も人並みな「俺」は、祖国を救うために士官学校に入学。
ハードな戦争と政治の世界で大活躍する!

Webでの連載スタートから僅か半年で2,000万PVを獲得した人気の転生戦記が、ついに書籍化!

 

 

2.英雄戦記という命名に恥じない物語

本作品、異世界もののお約束を踏襲し、現世(日本)で生きていた記憶を持つ少年が主人公となります。その記憶を引き継いでいるため、知略に長けており、それを活かして名を残そうと士官学校へ入るところから物語は始まります。

 

そして士官学校には、ツンデレヒロインに、気のいい残念イケメンの友だち、とエロゲ必須の要素を散りばめながら、作品の背後で歴史が蠢いている。そんな筆致になっています。何度も場面転換が行われ、基本的には主人公の一人称ですが、そのシーンごとで人称も違ったりします。ストーリーが進むなか、徐々に主人公は年を重ね、友たちとも離れてくらし、再開しつつも成長していく・・・あ、これ、銀河英雄伝(げふんげふん)。

 

冗談はさておき、作品内で年を重ねたり、すぐに本編に絡まない背後の人間関係を動かしたり、ヨーロッパの中世から近代あたりまでの歴史をベースにおいた世界観は、かなりの重厚さを持っています

 

書きながらプロットを生み出しているというよりも、もともと脳内にある世界観をどうやって切りとって、文字として落としていこうか。そんな態度が見え隠れする作品であり、「はよ、続き、はよ!」と思わせられます。

 

ライトノベルといえば初動がすべて、という風潮がありますが、これはなかなかに痛し痒し。大きな世界観、重たい世界観、奥行きのある深い世界観。それを1巻だけで提示することは、文字数の関係で、実質不可能だからです。小出しにしつつも、どうしても1巻では回収できない伏線をいれないと、世界を構築できないから。

 

そういう意味で、本作品。初動で読ませる工夫がちりばめられつつも、大きな世界観を作り上げようとしており、大変、面白く、そして共感できる内容になっています。

 

 

3.ツンデレっていうけれど

ツンデレという言い回しはもう陳腐になっていますが、ツンデレキャラというのは、物語において鉄板。もっと一般的な言い回しを用いれば、主人公に好意を寄せる女の子がいて、それでいて素直になれない性格の持ち主。このキャラ造形は、そうすたれることがありません。嬉し恥ずかし焦らされ快楽原則をきっちり捉えていますから。

 

だいたい、好意をよせる女の子が素直だったら、もう一直線でゴールインだよね・・・それって100ページくらいで話し終わるよね、ラブコメだったらさ・・・。

 

で、で、なんですが、本作品にもツンデレ女子が登場しているのですが・・・違う、そうじゃない。本作品の本当のヒロインは、主人公(男)その人なんですよ! 分かりますか? もっかい言いますね、主人公が一番ツンデレしています! これがまたいいんだ。

 

証拠をお見せしましょう。これはツンデレ女子から壁ドンされて、いろいろ話しして、最後に「ありがとう」と言った直後のシーンです。

 

「……な、なによ! 気持ち悪いわね!」

 そう彼女は憤激すると、俺に向かって拳を向けて来……なかった。その代わり胸を軽く叩かれただけで終わった。おい、そんな中途半端なことするならいっそ殴って。(236ページ)

 

 

はい、分かりますね。ん? 分からないですって?

ええとですね、「気持ち悪いわね!」というツンデレっぷりは、このシーンの本質ではありません(何を言っているんだお前は)。注目すべきは主人公のツンデレなんです(だから何を言っているんだ、じんたね落ち着け)。

 

本作品、作品設定や魔法属性について、主人公の視点を離れている場合、おおむね堅めの文体で書かれています。もちろん分かりやすくかみ砕いてくれていて、するすると読めるものです。それとは対照的に、主人公の一人称がメインとなるシーンでは、本当に軽口ばかりの独白が多い。クスクスと笑えるものが続きます。

 

引用したシーン、主人公はヒロインから殴られないことに違和感を表明しています。それはこれまでの関係が殴る蹴るの連続という、これまた嬉し涙がでるM系男子の夢だったからです。そんな彼女が本気で殴らなかったのは、言わずもがな、主人公への好意を、わずかではありますが正直に表現して、それが態度に現れたからに他なりません。これまでのように照れ隠しが続いているのであれば、ここは壁にめり込むくらい主人公を一撃のもとに屠ったことでしょう。ひぃ、恐ろしい。

 

でも、それを素直に、主人公は受け取らない。「ありがとう」と言ったり、微笑み返したりしない。そりゃそうですよ、するはずがありません。だって主人公が一番のツンデレなんですから。暴力的な行動には出ないけれども、素直に気持ちを表現できないから。だから、「中途半端なことするならいっそ殴って」なんて感想を抱いちゃうし、それを口に出すこともない。「おい」と最初は強気に呼びかけておきながら(心の中で)、最後には「殴って」と丁寧な依頼文のカタチになっている(心の中で)。

 

 

ツンデレ男子きたぁー!!

 

と読みながら、これまでの重厚な世界観を放ったらかしにして、一人で萌えていたことを、ここに正直に告白します。

 

・・・ええと、真面目に話をしますが(?)、ツンデレ女子を魅力的に描き出すには、おそらくそれをとらえる一人称の視点もまたツンデレである必要があるのではないか。主人公に可愛げがあるからこそ、その視点に移るヒロインの言動もまた、可愛げのあるものに見え、それが一人称の文体として綴られていくのだから。

 

さっきの引用文で、たとえば「こいついきなり殴ってきやがった。軽くても痛いな」なんて冷静な一人称があっては、ヒロインのツンデレ感が激減するし、ツンデレであるかどうかも見えなくなってしまう。

 

だから逆説的にも、ヒロインのツンデレを可愛らしく描こうとすれば、その主人公をこそ可愛らしく描かなければならないという縛りが生まれるんじゃないかと、今さっき思って、こうして書き綴っています。

 

悪一先生、ごめん。こんな感想しか書けなくて。

(文責:じんたね)

 

さて、次回作はラクロスになります。

暴風ガールズファイト (ファミ通文庫)

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