ライトノベルは斜め上から(33)――『株式上場を目指して代表取締役お兄ちゃんに就任致しました~妹株式会社』

こんばんは、じんたねです。

今日は休肝日だから、お酒がない。渇くぞ……!

 

さて、本日の作品はコチラ!

  

 

解題――お金がない!

 

 

1.作品概要

「俺の妹になってください!」

 

 

政府の景気対策に基づいてビジネスパートナーを探していた五條田譲は、

渋谷街頭で見かけた西森舞華をスカウトした。

全国のお兄ちゃんを募り、妹を資本として株式を発行し、全国の投資家お兄ちゃんたちに

妹株式を購入してもらう。

そのためには譲にはどうしても妹が必要で、舞華は譲にとって理想的妹だったのだ。

それが『妹株式発行による会社設立に関する法律』に基づいて出来たとある妹株式会社の

代表取締役お兄ちゃんと妹資本の出会いだった。

 

兄と妹と株式と、ちょっとだけビジネスに詳しくなれるかもしれないサクセスストーリーここに開幕!

 

 

2.ヒロイン達は登場するが

本作品、設定は見た通り、とても奇抜になっています。妹を株にする。誤植ではなく、妹を株にします。厳密にいえば、妹役としての他人を株として所有するというかたち。そこには妹として3人のヒロインが登場し、どの彼女たちも、テンプレを押さえつつ可愛らしい振る舞いをします。

 

が、(ラブ)コメディの装いはここまで。

 

本作品、なにより異彩を放っているのは主人公の苦労話と、やや緊張感の欠けた商魂魂にあります。ヒロインたちはそれなりの設定を背負い、各々、妹株式会社で働くのですが、これといってラブコメを中心に展開することはなく、どちらかといえば後景に退きます。

 

「世の中のオタクには妹属性というのを持っている連中がいて、妹株を発行する事で、妹が欲しい全国のオタクから資金を募るのがこの妹株法のキモなんだな。妹は欲しいけど妹がいない、でも妹券を買えば自分にも妹が手に入る。すばらしいじゃないか!」(18ページ)

 

私のようなラブコメ脳は、「ほほう、妹にしたからには、それなりのことをするんでしょうなぁ」なんて下心丸出しで読み進めていったのですが、そういった不健全な予想は裏切られる。(ぐぅ!) その代わりに、物語を駆動させるのは、あれでもかこれでもかと苦労を続ける主人公資本主義辛い・・・そう思っちゃいました。辛い。

 

 

3.商売を始める辛さ

営業活動の一環として、電話を掛けたり、パソコンでDMしたり、レスがあった企業には郵送で資料を送ったり、それでもなしのつぶてでがっかりする。こんなシーンがあるのですが、やけに生々しい。これは、実体験だろうと勘繰ってしまうほどです・・・資本主義、辛い。

 

物語の中盤から、起業したての主人子に味方が現れるのですが、この人物も胡散臭い。どう考えても裏切りますよオーラがぷんぷんしていると思ったんですが、そんなことはなく、1巻の段階では平和に話が進んでいます。

 

終盤では一発逆転、起死回生のイベントで勝負するという話があるのですが、そこでのツッコミも世知辛い。一つのイベントに傾注するよりも、リスクヘッジを行なって、そこが駄目になったときのことを考えろと、主人公は諭されていたりします。

 

そうです、もうお分かりかと思います。

 

本作品は、ラノベのコメディを装った、立身出世の成り上がりストーリーなのです。お金がない!』(1994年)という織田裕二主演のドラマがかつてありましたが、それを彷彿とさせます。はあ、お金ないと辛いよね・・・辛い。

 

主人公は、ものすごく弁が立つわけでもなく、風貌がよいわけでもなく、頭が切れるわけでもなく、先見の明があるわけでもなく、他人より一歩も二歩も遅れているのですが、持ち前の「能天気」さと、折れないメンタルを武器に、じわじわとビジネスを拡大してくのです。

 

 

4.リアリティの届け先

現在、日本は不況で若者に仕事がないと言われています。私の立場では分からないところもありますが、肌感覚としてはそう感じています。

 

本作品、働くとはどういうことか。人から仕事をもらうとはどういうことか。そのイメージを掴むためにも、とても有益だと思います。願わくば、10代、20代の人間に目を通してもらいたい。あるいは30代、40代で、転職やラノベ作家を目指すような人間にも読んで欲しい。また50代、60代のひとには、若者の切迫感を感じ取ってもらうためにも、目を通して欲しい。

 

・・・全年齢対象じゃん。

 

テンプレな記号に隠された、苦労話に耳を傾ける。するととんでもない奥行きが見えてくる。そんな噛めば味わいのある、一風変わったライトノベルです。じんたねイチオシの作品でした。

(文責:じんたね)

 

さて、次回作はコチラ!