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ライトノベルは斜め上から(30)――『世界で2番目におもしろいライトノベル』

こんばんは、じんたねです。

ハロウィーンといっても、日本酒を飲んでいるだけですね。。。

 

さて本日のお題はコチラ!

世界で2番目におもしろいライトノベル。 (ダッシュエックス文庫)
 

 

 

解題――あなたに贈る、鎮魂歌

 

 

1.作品概要

内容紹介

あらゆるラノベ的災難やイベントに巻き込まれ、どんな凡人でも「主人公」に変えてしまう、英雄係数(メサイアモジュール)。

「祭」は、世界一影の薄い高校生だったが、 最終回を終えて、現世に戻ってきた元主人公たち(魔法少女やら女勇者やら学園異能の覇者やら)の策略により、英雄係数をMAXまで上げてしまった! !

ラノベのあるあるやパロディが満載のファンタジーコメディ。

 

内容(「BOOK」データベースより)

認知度海抜0mを自負する高校生「祭」は、ある日“エンディング後の主人公”と名乗る4人と出会う。非日常に飽き飽きした彼女たちは、平凡な日常を取り戻すため、どんな凡人でも主人公に変えてしまう“英雄係数”をもらってくれと、祭に頼む。最初は全力で断る祭だったが、“元魔法少女”の「夏恋」の危機を救う為、4人全員の英雄係数を引き受けた瞬間…世界が一変!“魔法少女”がヒロインに、“学園異能の覇者”は悪友に、“異世界の救世主”は妹に、“伝説の勇者”は担任に。なんと祭は、最強の元主人公たちを脇役に従え、世界を守るラノベ主人公になってしまった!ライトノベルへの愛と憎しみに満ちた、泣けて笑える終幕英雄“エンドロール”ラブコメ、新発売!!

 

 

2.ラノベめった切り

本作品を開いてみて、まず目に飛び込んでくるのは、そのライトノベルの「お約束」をバシバシ指摘する主人公のモノローグオンパレードです。あるわあるわ。ビックリするくらい続いて、読みながら「大丈夫か?」と心配してしまうほど。

 

1つずつ引用して指摘することはしませんが、「そうそう」「あるある」といったネタがふんだんに盛り込まれていて、それを作者自身が、作中内でツッコミを入れるという構図が、しばらく続きます。

 

作品の宣伝文句に『※この作品は、ライトノベル界に喧嘩を売っています』とあるだけあって、いわゆる90年代ファンタジーから現代異世界ものへの系譜の押さえ方は、中々に、辛辣です。

 

じゃあ、この作品はライトノベルに、その売り言葉のように喧嘩を売っているのか。それは全然違います。昔から言うではありませんか、ケンカするほど仲がいいって。この諺の解釈には諸説ありますが、一つの解釈として、ケンカするほどに相手のことを長所も短所も含めて知っていなければ、それだけ仲良くなければ、ケンカなんかできないとい意味があります。

 

本作品、ライトノベルのお約束を自分で書き連ねつつ、それに自らツッコミを入れている。ライトノベルを愛していなければ、こんなことはできません。もっと言えば、自分で書いたものに自分でツッコミを入れている。誰も傷つけていません。このあたりにも、雑駁な文体で書かれているようで、よく神経が配られていることが分かるでしょう。

 

 

3.ツッコミを回避している部分から見えるもの

さて、かといってライトノベルのお約束の「すべて」にツッコミを入れていては、ストーリーは前に進みません。「お約束じゃん」と言ってしまったら、キャラクターたちが真面目に行動する足場を奪い取ってしまうからです。あざとく執拗にツッコミを入れているようにみえて、よく読んでみれば、細かい部分では「お約束」でもツッコミを免れている部分があり、それがちゃんと、ストーリーの核になっていたりします

 

ここは具体的にあげておきましょう。

 

・主人公が冴えない男子高校生であり、ワナビであること。

・他作品を読んで、その感想を辛辣な言葉でブログに書いていること。

・とあるライトノベル作品に心打たれ、それをきっかけにしてワナビになったこと。

 ・美女・美男の転校に、クラスメイトがわき立つこと。

・お昼ごはんをめぐる購買部での買い物競争。

・主人公が『秘蔵のエッチ本』を所持していること。

星新一の言葉が、キーとなる場面で使われていること。

 

 

他にもありますが、おおむね、このあたりでしょう。これらのツッコミを免れた現象を、うすらボンヤリと眺めてみてください。とりわけ20代後半から30代にかけての読者のみなさま。

 

・・・分かりました、か?

 

時代の香りがしてくると思いません? まだライトノベルが今ほどメジャーではなくて、趣味は読書ですと親しい人間にも苦しい説明をしなければならなかった頃のライトノベル現代の若者にとっては、おそらく『秘蔵のエッチ本』は、同人誌あるいはネット上の動画であって、ベッドの下に隠すのは、もはや様式美といっていいでしょう。美女美男にわきたつ教室賑わうお昼の購買部というのも、ここまでアイドルやコンビニが一般になった現在、あまりリアルな現象ではない。様式美なんですね。

 

つまり、この様式美を共感し、読み込める世代というのが、本作品のターゲットとして設定されており、それは現役の中学生・高校生・大学生、ではないんです。

 

ワナビとして書き続ける活動も、社会人になったあたりから、その切迫性が変わってきます。学生の時代であれば趣味の延長であっても、社会人になって続けることは、大変苦しい。評価されないことへの重課が、その身を憔悴させるからです。

 

若い頃、ライトノベルに心惹かれ、自分でも筆をとるようになり、そして小説家を目指す人たち。この世代の人間に向けて、本作品は書かれています。これは間違いない。

 

 

4.売れなくてもいいじゃないか

そして、そのメッセージは、とてもまっすぐで純粋です。孤独にパソコンのまえでキーボードを叩き、これといって評価されないことを経験し続け、他人に嫉妬し、己の能力を卑下・過信し、迷いの渦に飲み込まれたことのある人なら、涙なしには読めない。

 

それは物語の後半部、主人公がこう語っていることに集約されています。

 

「そもそも青春てもん自体がろくでもないんだ。中高生のバイブル星新一も言ってたよ。『青春はもともと暗く不器用なものなので、明るくスイスイしたものは商業主義が作りあげた虚像にすぎない』って。なのに、かけがえない時間だなんて大人は青春をもてはやす。過度な礼賛、神格化。本当は青春なんて人生で一番苦々しい時期なのに、それを甘酸っぱいとか味覚オンチかよ」

 受験。将来への不安。学校での人間関係。肥大化する自意識。

 未熟な器になみなみと大人の事情を流しこまれてみんな溺れそうなんだ。(216ページ)

 

 

この溺れそうな自意識、ライトノベル作家になれるに違いない、でもなれない、というものが隠されていることを見抜くのは、さほど難しい話ではないでしょう。これらの苦しい青春の「痛み止め」(217ページ)こそが、マンガでありアニメであり、ライトノベルであると断言されているのですから。

 

クライマックス。

次の言葉は、本作品でもっとも感動するものだと、私は考えています。

 

ラノベ作家になるのも諦めた。何もかも否定したかったんだよ。

ライトノベルへの情熱も。だからムキになってラノベ叩きをくり返した。

現実が怖かったんだよ。だってそいつに、俺の信じる最強のヒーローが殺されたんだ。(228ページ)

 

 

主人公が本音を吐露することで、読者に向けてメッセージを伝えていることは明々白々。ライトノベルなんて飽きた、どれもこれもテンプレでつまらない、女の子が可愛ければいいんだろ、そんな暗い言葉が脳裏をよぎる。情熱が裏切られたとき、それは安易に憎悪へと転化します。本作品は、そんな心を持った人に向けた、鎮魂歌なのです。

 

もう1つ、ぜひ読んでもらいたい台詞があるのですが、それは敢えて引用しないことにしましょう。ぜひ、本作品を手に取って、確認して欲しいからです。

 

とはいえ、何にも言わないのは「なんじゃそら」なので、簡単な小話をしておきます。昔むかし、ニーチェという哲学者がいました。彼は『ツァラトゥストラはかく語りき』という本を書きます。自分が書きあげたときは世紀の大作だ、絶対に評価されると、自信満々だったのですが、出版社からは軒並み断られます。仕方なく彼は自費出版して、ごく親しい人間に配ったのだそうで。ツァラトゥストラの第四部は40部ほどしか刷られず、日の目を見ることはありませんでした。

 

が。

 

その作品を古本屋で手にして、衝撃を受けた人がいます(ごく親しい人間が売ったかもしれないという事実がありますが、それはそれ)。あのショーペハウアーです。ニーチェの言葉に感銘を受けて、後世に名を残す哲学者になったことは、言うまでもないでしょう。

 

世に認められること、あるいは誉めそやされること。これは作品の内在的価値と連動することがありますが、そうでないこともあります。逆もまたしかりです。何が売れるのかは、分からないから。ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』も出版社に引き取ってもらえず、さんざん苦労しました。

 

そういうことが書いてあります。ぜひ、作者の言葉を読んで、その力強さを感じて欲しいと思っています。

 

『※この作品は、ライトノベル界に喧嘩を売っています』――だったら読んでみるか、と考えて本作品を手にする人々に向けて、まさに本作品は書かれている。看板に偽りなしの傑作でしょう。

 

 

5.ライトノベルは誰が読むのか

最後に補足的なことがらをいくつか。本作品は、ライトノベル作家を志したあるいは憧れたような人々に向けた鎮魂歌である、そう私は言いました。

 

ただ、ここには強烈な逆説があります

 

本作品、商業作品として成功しているんです。売れ行きは今後の動向をみないと分かりませんが、少なくとも、ネット掲載のまま埋もれるようなことはなかった。スマップが世界に一つだけの花という歌で感動を呼びましたが、そりゃ、スマップのような超ハイスペックな個人がそういうのなら分かる。私のようになんの取り柄もないような人間が「一つだけの花」なんて言われても、というセリフを吐いた知人がいます

 

ははあ、それはそうだけど、なんだかなぁ、というのが当時の私の感想でした。

 

本作品は、ライトノベルのお約束へのツッコミからスタートするため、メインストーリーに移行するまで、かなりの紙幅を割いています。そこがなければ、200ページにも満たない分量になります。

 

これほどまでに前置きをしないと、ラッキースケベも、冴えない主人公も、やや難のあるツンデレヒロインとのやり取りも扱えないのか。ライトノベルの飽和が、まことしやかにささやかれていますが、それは良作が埋もれてしまうという問題もさることながら、こうした読み物への没入を妨げてしまう、反省作用がもたらすことの困難さではないかと思っています。つい他作品と比較して、引いて読んで、ああ見たことがある、と感情移入することを避けてしまう。

 

それと戦い、ツッコミから王道のラノベストーリーにまで引っ張り込んだ作者の力量はさすがとしか言いようがないのですが、その悪戦苦闘を生み出している状況に鑑みると、中々に、苦しいものがあります。

 

さて、これから作者は、どう戦っていくのか。その背中を追いかけながら、力及ばずとも力になろうと思った、おススメの一冊でした。

(文責:じんたね)

 

次回作はコチラです!

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! (GA文庫)