ライトノベルは斜め上から(28)――『All You Need Is Kill』
こんばんは、じんたねです。
今夜はやや感傷的な書きぶりになるかもしれませんが、取り上げる作品はコチラ!
All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)
- 作者: 桜坂洋,安倍吉俊
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/12/18
- メディア: 文庫
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解題――ヒロインを助けたいと思ったことはあるか
1.作品概要
「出撃なんて、実力試験みたいなもんじゃない?」敵弾が体を貫いた瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日に戻っていた。トーキョーのはるか南方、コトイウシと呼ばれる島の激戦区。寄せ集め部隊は敗北必至の激戦を繰り返す。出撃。戦死。出撃。戦死―死すら日常になる毎日。ループが百五十八回を数えたとき、煙たなびく戦場でケイジはひとりの女性と再会する…。期待の新鋭が放つ、切なく不思議なSFアクション。はたして、絶望的な戦況を覆し、まだ見ぬ明日へ脱出することはできるのか。
2.懐かしい
本作品は――と始めるのがスタイルになりつつありますが、今日は昔話から。
本作品を読んだとき、とても懐かしい記憶が蘇ってきました。かつて「セカイ系」と言われるカテゴリーが流行っていた時代。その空気をたくさん吸いながら、私は育っていきました。
どうしても結ばれるべき2人が結ばれない。それを世界が許さない。
この感覚がとても切なくて、「セカイ系」とよばれる作品に触れては、「どうしたら2人を救うことができたのか」、そればっかり考えている自分がいました。
本作品には、そのエッセンスが十二分に込められていて、昨日、あらためて読み返しながら胸が締め付けられるような気持ちになりました。どうしたら2人は助けられたのか。
あとがきにあるように、本作品はバッドエンドではないでしょう。きわめて妥当なかたちで、2人の生き方が示されている。だけど、やっぱり、それは切ない――というか、嫌だ。これが今の私のモチベーションの原点にあるのだと、再確認させられました。
3.さて、どう助けるのか
じゃあ、じんたねだったらどうするのか。
作品内でも丁寧にロジックが積み重ねられていて、なかなかタイムループの逃げ道が見つからない。まず基地を脱走しようとしても、民間人と一緒に殺されてしまう。2人が生きたままタイムループの元凶を断とうとしてもそれは成功しない。ようやくループから2人で抜け出せたと思った直後、それに失敗したときの主人公の悔しがる姿は、とても悲しいものでした。
タイムループのメカニズムを解明して、事前に何とかする、というのも塞がれています。ヒロインはすでに精密検査を受けており、その原因は不明であると診断されているからです。限られた時間内に、たとえタイムループしていることを信じてもらえたとしても、それを解明する技術はない、と逃げ道が塞がれてしまっています。
そして作品内では、タイムループの原因となっている主人公とヒロイン、どちらかが死ななければならないという流れになり、最後は決闘することに。結論は言わずもがなでしょう。
じんたねはずっと考えました。どうやったら助けられるのか。作品の感傷的な雰囲気に呑まれてはいけない。きっと方法があるはずだ。
――1つだけ、可能性があります。
2人の人物が、お互いにタイムループを経験し、その経験値を蓄積したまま接触を果たしているという事実です。
小説内では、一人称視点の変更で説明しようとしていますが、ヒロインのループにあるときは主人公が、主人公のループにあるときはヒロインが、それぞれ記憶をリセットされている。どちらかがメインでループを繰り返したとしても、2人の関係は縮まりません。片方の記憶は消え、関係性も一からスタートしなければならないからです。
だが、ここはよく考えてみる必要がある。
お互いにループを繰り返し、その成果で、規格外の戦闘力を身につけている。これはつまり、2人のループが、同時発生し得ることを意味します。本当にいずれか一方だけのループしか発生しないのであれば、ヒロインと主人公が「両方共」規格外にはなれないはずです。だったらループを定期的に交互に繰り返すことで、コツコツと貯金するように、お互いの記憶の蓄積が進むのではないか。
経験値の蓄積が進むのならば、戦場でも違う戦い方ができないだろうか。もっと圧倒的に敵をほふり、次の手を考える時間を稼げないか。
作品内では、その可能性はないと否定されていますが、そう断言するのはヒロインの言葉だけです。裏づけはない。だったら、少なくとも、それを確認してからでもいい。最終的な結論に一足飛びすることはない。
4.なら助けられるのか
助けられません。
いったん文字となって作品として流通してしまったものは、もうそれがすべてだからです。なにより、私の作品ではありませんし、そんなつまらない結論を採用しては、せっかくの面白さが台無しになってしまう。二次創作という手段ももちろんあり得ますが、それはすでに私の解釈を通じた別作品です。私が助けたいのは、まさにこの作品にこそ登場する、あの2人なのですから。
ここまで考えると、気付かされます。
なんとかして2人を助けたいと思っている時点で、すでに作品にハマってしまっている。真剣になってどうにかしようと思わされている。まんまとやられたなぁ、というのが率直な感想でした。
専門知識を持っていたり、ライトノベルに馴染んでない人にとって、このタイムループという設定は荒っぽいものにうつるかもしれません。ただ、それでも精緻であれば面白くなるというわけじゃない。逆に、荒唐無稽であればエンターテイメントになるわけでもない。書かれた文字の背後から、何かを感じた、というそれが重要になるのだと思っています。
その意味で、本作品は間違いなく、私にとって素晴らしいものでした。これからも読み返し、あの雰囲気を思い出しながら、自分のモチベーションを確認することのできる、珠玉の一冊です。
(文責:じんたね)
さてさて、次回作はコチラを予定しています。