ライトノベルは斜め上から(25)――『ある朝目覚めたらぼくは』

こんばんは、じんたねです。

日本酒の原酒って、超おいしいんですね。

 

さて、本日はコチラ!

ラノベじゃないと言われていますけれど、ええい、ままよ!

ある朝目覚めたらぼくは ~機械人形の秘密~ (集英社オレンジ文庫)

ある朝目覚めたらぼくは ~機械人形の秘密~ (集英社オレンジ文庫)

 

 

 

解題――フラット

 

 

1.作品概要

『エデン』―それは日本有数の資産家である遠江家が広大な私有地に作った集落で、芸術家や職人が集まり、さまざまな店を出している。唯一の家族である祖父を亡くした高校生の遼は、彼が『エデン』に残してくれた住居兼アンティーク雑貨店『エトワール』に引っ越してきた。自分がいつからか持っていた機械人形を店に飾ると、人形の持ち主だという少女が現れて…?

 

 

2.物語の起伏

本作品の特徴は、なんといってもなだらかな物語の展開にあります。歴史ある人形を手にした主人公が引っ越してくるところから物語は始まり、その人形をめぐって、暗号をといて、お宝を手に入れて、美少女も転がり込んできて(?)という流れですが、きわめて淡々としています。

 

伏線が入り乱れることもなければ、キャラクター同士のどぎつい応酬もない。あざといエロスもなければ、読者を騙そうとする謎解きもない。すべてが平和裏に展開するのです。

 

いや、こう表現しては語弊があります。もちろん物語に山場はあるのですが、どういえばいいのでしょうか。禁欲的なまでに裏がない、といえばいいのか。まだ適切な言葉を見つけられないでいます。

 

 

3.癒しとしての物語

だれが言っていたのか忘れましたが、小説の面白さは、大別して二方向に分かれるのだそうです。1つは現実をどれだけ離れた設定を描けるか。奇想天外で新奇で突飛で読むものを興奮させるもの。もう1つは現実をどれだけ再現するか。日常を克明に描き出すことで、それを再認識させる。

 

本作品は、この分類に従えば、間違いなく後者です。私自身、ライトノベルを書きながら、この分類は荒っぽいと思いつつ、それなりに機能していると感じます。

 

ダイナミックな小説は、いわば心臓への負荷が大きいんですね。疲れて活字すら追えないとき、人と話をしたくないとき、元気すぎるキャラクターが愛らしいにもかかわらず、追いかけられないときがあります。読むときも書くときも。

 

そんなとき、本作品のように静謐なものを読むと、深呼吸ができる。ずっと突飛な展開で、それをいかして現実を逆照射する――晩期資本主義の問題点を指摘しよう、何でもお金や時給で考えることが普通になっているのを指摘しよう、でも当たり前すぎで誰も驚かない、だったら架空の貨幣が支配する学園とかどうだろう、あ、モチャ子だ!! 設定被ってるよ!!――ことばかり考えてきた私にとって、とても新鮮な読後感でした。

 

秋の夜長。しずかに活字を追いかけ、そして自分の心を落ち着かせたい時。本作品を読んでみてはいかがでしょうか。
(文責:じんたね)

 

次回作はコチラになります。