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ライトノベルは斜め上から(15)――『救わなきゃダメですか? 異世界』

ライトノベルは斜め上から

こんばんは、じんたねです。

お酒があれば生きていける。

 

さて、本日読ませていただいたのはコチラです!

 

 

解題――時代小説への接近

 

 

1.作品概要

応募総数は6284作品。日本最大級のノベルコンテスト「エリュシオンノベルコンテスト」、通称「なろうコン」。

その第3回コンテストにおいて、見事金賞を受賞し、書籍化される作品が今作。

 

世界を救え?戦う相手は…同胞?

圧倒的スケールの異世界ファンタジーバトルの幕開け。

 

『皆さんにはこれから異世界へと転移していただきます。』

その女神の言葉とともに、ミチナガは異世界に降り立った。

 

彼が手にしたのは三種類の強奪系スキル。

そのスキルを頼りに、ひと癖もふた癖もある人たちと出会いながら、なし崩し的に世界を救うために動き出す。

 

女神の言葉の真意とは?与えられたのは3つのヒント…--

『異世界を救え』『ダンジョンの攻略』『戦う相手は同胞。』

 

これは、世界を懸けた、世界を巻き込む、世界の為の物語。

 

 

2.大人のリアクション

異世界に召喚された主人公が、仲間たちと一緒に、その世界で活躍する。かつてのファンタジーライトノベルが担っていた役割が、時間を経て、ソーシャルゲームRPGのリアリティを獲得して、異世界というジャンルが形成されている昨今、その王道をゆく物語です。

 

といってしまうと、その不思議な魅力を捉えそこなってしまう

 

今私は「不思議」だと言いました。あくまでも私にとっての不思議な感覚なのですけれど、本作品のキャラクター達、どれもこれも、リアクションが大人びているというか達観しているというか。異世界に招かれてビックリ!? という態度がまるで見られないんです。

 

たとえば。主人公が異世界に召喚された直後、同じタイミングでその場に集う人々とこんな会話を交わします。

 

「やっぱりあのゲームが原因ですかね?」

「おそらく間違いないでしょうね。幾つか小グループもできているようですし、話を聞きに行ってみましょうよ」

 (中略)

「あっ! 藤原さん!」

「ひいらぎちゃんか、偶然だね。どうしたの、こんなところで」

「お知り合いですか?」

「ええ、会社の同僚です」(22-23ページ。なお、会話文のみを抜き書きした)

 

 

――えっ、ええええええっ!?

 

いきなり、理解を超えた何かによって、わけのわからない場所に飛ばされたんですよ!? なのにまるで、金曜日の仕事終わりに、久しぶりに所属する課をこえた懇親会が開かれ、そこで挨拶しているようなまったり感がある。少なくとも、命の危機を感じていたり、元の世界に戻りたいと慌てたりする、素振りはない。

 

主人公が中高生であれば、ゲームやアニメの世界観に精通していれば、そりゃ喜んだり興奮したり、あるいは異世界を受け入れたりもするでしょうが、何というか、こんなに淡々としてていいのだろうかって。

 

この冷静というか、「まあ、とにかく事情をちゃんと理解しよう」という態度は、異世界で活躍し始めるころから徹底して一貫しています。事情の分からないことがあれば、まるで道を尋ねるように、冷静に淡々と、詳しい人に聞く。

 

私も異世界に飛ばされたら、たしかにこんな風に生き残ろうとするかなぁ、なんて思いました。これまでとは違う、不思議な大人のリアリティをたたえていると思います。

 

 

3.大人の情事

そして、もう一つのリアリティとして、大人の情事が挙げられます。本作品も――大変私にとっては嬉しいことに――サービスシーンがございますいい! 大変素晴らしい!

 

そのサービスシーンのもたらされかたが、これまたいい! 作中には主人公と行動を共にするフェアリーが登場するのですが、「フェアリーの加護」によって、「気持ちの良い夢が見られ」(74ページ)んです!!

いいですか、もう一度言いますよ? 気持ちの良い夢が見られるんですよ!!

 

ええと、冷静に話をします。チーレムでも何でもよいのですが、女性と一定以上の関係を築くと、その関係の維持等に、けっこう神経を使います。一夜を共にすればなおのこと。とはいえ、一方的な関係にしてしまって、女性の思考や感情を無視するのは忍びない(あえて、戦略として、あるいは作風としてはもちろんありえます)。

 

でも、夢ならどうか。誰も何も困りません。だって夢ですから。で、夢の描写を克明にすれば、それは読者にとって、素晴らしく「気持ちの良い」読後感をもたらしてくれます。

 

・・・無敵じゃねえか、このエロス

 

無敵です。何でもありです。しかもイベントフラグ管理も万全。やろうと思えば、毎晩夢なら見させることができます

 

・・・完全敗北だ

 

こんな設定反則過ぎる素晴らしいいいぞもっとやってお願いします――そう感じずにはおれません。

 

そして、作中では、本当に一歩進んだ「気持ちの良い夢」を見ます。これはここで描写や引用を控えさせてもらいますが、「大人」という形容を裏切らない内容です。ほんと、読んで! 210ページからだから! 作品的にも重要なシーンだけど、すごくいいから!

 

 

4.大人の娯楽、ライトノベル

面白く、本作品を読み終えて、「あれ、この感覚、どこかで・・・」と思いました。以前、何かの作品を読み終えたときに感じた、それに似ているような。

 

――あ、時代小説だ

 

そう、時代小説だったんです。主人公が冷静に行動し、大人のロジックを駆使し、それでも冒険活劇を堪能し、ちゃーんと女性とのアレも踏まえる物語。

 

時代小説とライトノベルはずいぶん違うと思われるかもしれませんが、エンターテイメント性という意味において、極めて類似しています。

 

・気軽に読める。

・読者の文化背景を、ばっちり押さえている。

・お約束を裏切らない(あるいは、あえて裏切る)。

・異なる時代、異なる世界、という舞台設定。

 

 

似ています。違うのは、その売れ行きと読者層くらいではないでしょうか。

 

本作品、紛れもなく次世代のライトノベルだと思います。なぜなら、ライトノベルというフォーマットが、時代小説同様に、きっちりとしたクオリティコントロールをされていることを、自ずから示している。

 

時代劇がエンターテイメントだった世代に対しての時代小説があるように、アニメやマンガといったサブカルチャーをエンタテイメントとして育った世代に対しての、ライトノベルがある。

 

ライトノベルという言葉が発明される以前の、朝日ソノラマ的というべきか、ティーンズ文庫というべきか、ファンタジー小説というべきか、ゲーム小説というべきか、ヤングアダルト小説というべきか、マンガ小説というべきか、それらのいわば「何でもあり」な文化からの蓄積があり、現在のライトノベルに結実し、その遺産が本作品なのだと、読みながら感心してしまいました。

 

これから、このライトノベルフォーマットは、エンターテイメントの小説の1スタイルとして、ほぼ不動になっていくでしょう。そして、その記念碑的作品として、本作品は意義を持ち続けるのではないでしょうか。

 

本作品、ライトノベルを読まれるかたにはもちろん、時代小説に慣れ親しんだ方にも、一読をおススメします。そこには驚くほどの類似性と面白さがあり、その発見の喜びに、「大興奮」(意味は察してね)すること間違いなしの傑作です。

(文責:じんたね)

 

さて、次回作もぽにきゃんBOOKSからです!

帰ってきた元勇者(1)

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