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ライトノベルは斜め上から(10)――『野崎まど劇場』

ライトノベルは斜め上から

こんばんは、じんたねです。

定期的にタンパク質を摂らないと、身体が動かないですね。

 

さて、今宵の作品はコチラ!

 

 

解題――ライトノベルの「分かりやすさ」という諧謔

  

1.作品内容

電撃文庫MAGAZINE」で好評連載中のユニークすぎる短編が文庫化。死体を探しに行く検死官、対局にペットを連れてくるプロ棋士、勇者を何とかしたい魔王、若頭、サンダーファルコン、ビームサーベル、ライオン、うげげげと喋る牛、電撃文庫の妖精等、変態的(?)な登場人物たちが繰り広げる抱腹絶倒の物語の数々。

 

2.図、図、図、イラスト、イラスト、イラスト

本作品は、ほんの数ページで読み切れる短編を数多く収録した、短編集です。全体に共通のテーマがあるというよりも、作者様のひらめきと感性をそのまま形にしたような、味わいのあるものです。

 

そして、多くの短編に共通してみられたのが、図やイラストの多用。もうこれでもかというくらいふんだんに用いられています。画像を掲載するのが目的ではないため、その中間(?)となるものを、少しばかり引用してみます。

 

ジョン

 |

 ∪

 

 

 

 

 ∩

 |

ビ ル

 

これは正確な引用ではないのですが、おおむね、趣旨は伝わると思います。登場人物はガンマンのビルとジョン。2人は、荒野の決闘よろしく銃弾を放ちました。それを「ゾーン」という極限の集中状態がもたらした、極めて時間がゆっくり流れるように感じられるモードになった解説役の人物が、ジョンとビルの言動を面白おかしく解説するという話です。言わずもがなですが、「∩」「∪」が銃弾を示し「|」が銃弾の軌跡を表現しています。

 

――そんな表現、反則じゃねえか!!

 

と、思いながら大爆笑してしまいました。社内のお昼休みにチラッと目を通したんですけれど、笑いを堪えるのが大変でしたよ、まったく。

 

さて、お分かりのように、本作品の諧謔は、ライトノベルの文法(あるいは業界)を越境して、それを相対化することで生まれています。ライトノベルの文法とは、色々な側面がありますが、1つ確実に指摘できることは「分かりやすさ」でしょう。分かりにくいライトノベルというのは、今の時代では、「ライト」と形容されない可能性がある。

 

とはいえ、ライトノベルの暗黙の前提ですが、いかに分かりやすくとも「活字」のレベルで表現しなければならない、というものがあります(最近ではそうでもない作品もチラホラ見かけますが、それに対するレビューに反発も多いことを踏まえますと、まだ定着している表現とは言い難いみたいです)。それを敢えて、本作品は超えてみせることで、それを笑いにしています。

 

他にも、

 

   ジ

  ョ

 ン

 

という表現があります。これ、ジョンが右側に移動しているんですね。ビルの銃弾を回避しながら。言うなれば「ョ」や「ン」は「ジ」ョンの残像といったところです……何だよ、残像って

 

もちろんそれだけではなく電撃文庫というレーベルを冠しながら、電撃文庫をやゆする笑いも散りばめられており、なかなかに、ブラックな切れ味の鋭い作品です。

 

3.ライトノベルの共同性

このスタイルが笑いを取れる、ということに、私は文化の成熟を感じています。すなわち、ライトノベル書く側も読む側も、これがライトノベル的であろうという観念を抱いているという意味です。そうでなければ、この諧謔は笑いになりません。

 

――ライトノベルの「分かりやすさ」を追求したら、図やイラストになりますよ、でもそうしませんよね

 

というツッコミが面白さになっているのです。そのことを知らない読み手であれば、これが何をネタにした笑いなのか分からないからです。

 

それは電撃文庫を揶揄する文脈でも同様です。ライトノベルレーベルの代表的なものをいくつか挙げろ、ともし言われれば、電撃文庫を外すことはできないでしょう。それくらい今では、メインストリームになっているからです。

 

もっと言ってしまえば、ライトノベルを読むだけではなく、ライトノベルを書こうとする人間が増えてきたことも背景にあります。「分かりやすさ」は活字で表現しなければならない。キャラが一同に集まる場所で、各々の描き分けに苦労したり、イラストにすれば一発で分かる建物の描写に苦しんだり。そういった経験を持っている人が多いからこそ、このネタは、強みを発揮する。つまり、ライトノベル共同体という土壌が形成されていることが、この作品の前提になっているのです。

 

これは冲方丁先生の『スプライトシュピーゲル』に見られるような「分かりやすさ」とは違います。あちらは、あくまでも活字にとどまったうえでの省略・簡略・記号化の試みだと思われますが、本作品は、そこを軽やかに飛び越えているのだから。

 

逆から深読みすると、それだけ本作品の作者は、活字による「分かりやすさ」を追求して苦労に苦労を重ね、「図やイラストだったら簡単なのに」という思いを蓄積し続けてきたのではないでしょうか。そのはけ口として、本作品は、痛快なまでの「分かりやすさ」――そしてユーモアの効いた切れ味のよい笑い――を生み出しているのではないでしょうか。

 

一つひとつの短編も短く、読みやすいため、ライトノベルを知っている人にはどなたにでもオススメですが、とりわけ自分でも書くという方には一読の価値がある作品です。

(文責:じんたね)

 

次回はコチラを予定しています!

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