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ライトノベルは斜め上から(4)――『トリックスターズ』

ライトノベルは斜め上から

こんばんわ、じんたねです。

冴えないもの書き志望です。

 

さて、本日のお題はコチラ。

久住四季(著)・甘塩コメコ(イラスト)『トリックスターズ』(電撃文庫、2005年)

 

トリックスターズ (電撃文庫)

トリックスターズ (電撃文庫)

 

 

解題――学者は失われつつある現代の魔術師である

 

1.内容紹介

 

その魔術師は、にぃと笑って言った。ゲームねぇ、なかなか面白そうじゃないか―。ゲームと称する、その予告は大胆にして唐突なものだった。『我は、今この会場内に集まった諸君の中から生贄を選定し、処刑することをここに宣言する』と。不可解な予告がはたして真実となったとき、舞台となる城翠大学は混乱の渦へと落下していく。加速する猜疑、恐怖、狂乱。だが、美しき女魔術師は、巧妙なる欺計を鮮やかにそして皮肉げに解き明かす。そしてゲームは誰もが予期せぬ結末へ。これは推理小説を模った魔術師の物語―トリックスターズ登場。

 

2.魔術とミステリーが交差するとき

本作品の特徴は、何といっても、謎解きミステリーをプロットの中心にすえながら、骨太な魔術というギミックがアレンジされている作風です。舞台は有名な私立大学である、城翠大学の魔学部。

 

鍵となる登場人物は2人――「ぼく」という一人称の主人公・天乃原周。そして、頭脳明晰で快楽主義者、世界で6人しか使えないという魔術を使用することのできる天才大学教授・佐杏冴奈

 

この2人の動きが物語を駆動し、謎を生み、それを解決するという展開になっています。主人公がワトソン役、大学教授・佐杏冴奈がホームズ役という作品内でも言及されている見立てに従えば、イメージしやすいと思います。

 

さて、本作品において魔術は、とても特殊な位置づけをされています。

これまた作内でも指摘されていますが、魔術を使えるからといって、ホウキで空を飛んだり、鉄を金に変えたり、死人を蘇らせたりといった「いかにも魔法」のようなことは、できないことになっています。きわめてロジカルで実証的。できることと、できないことがハッキリしているのが魔術であり、大学で研究される学問領域の一つとなっている。つまり魔術とは、学問の謂いなのです。

 

とはいえ。

私たちが知っている学問とは、もちろん違います。ダウジングによって人を探し出したり、結界に敵を閉じ込めたりといった芸当「くらい」(?)ならできるようになっています。

まだ科学技術の進歩が、人類に必ずや幸福をもたらすだろうと無邪気に信じられていた時代、科学技術に向けられていた羨望のまなざしが、『トリックスターズ』では魔術に対して向けられています。某とあるシリーズとは異なり、魔術と科学は対立関係にはなく、むしろ「=」で結ばれる位置にあります。

 

3.王道の謎解きミステリー

とはいうものの、魔術が謎解きに「直接」貢献することは、1巻の段階ではほとんどありません。謎の解答は、作中で必死に頭と足を動かすことで得られます。もちろん大学教授・佐杏冴奈は天才なので、悩んだりせず、あっという間に真相を見抜いてしまいますが。

 

そこに彩りを沿えるのが魔術。魔術が使える世界では、犯人・探偵の行動の幅が増えます。監視カメラに映らないよう透明人間になることはできなくても、カメラを見ている人間の意識を逸らせるくらいならできる。じゃあ、犯人は魔術を使って、彼らの意識を逸らしたのだろうか――このように推理に幅と広がりを持たせ読者を謎に継ぐ謎へと導くのが、この作品の妙味でしょう。

 

ミステリー好きであれば、必ず予想するであろう展開を裏切りつつ、同時にその予想に答える。終盤の、幾重にも連なった、謎のオンパレードは、一気に読まされてしまいます。前半部から引っかかっていた細かい伏線が、きれいに回収されいく様子は、思わず拍手したくなります。

おそらく作者の謎解きミステリーに対する深い愛情があってこその筆致であり、読みながら心地よさすら感じるほどです。直接の謎解きに関係ないところで、アナグラムが散見され、サービス精神も旺盛です。

 

4.大学というロスト・パラダイス

本作品、そんなぐいぐい読ませるミステリーの展開の傍らで、ひどく牧歌的な描写が、さしはさまれます。登場人物たちが謳歌する、キャンパスライフの様子です。

 

主人公たちは、佐杏冴奈のゼミに配属され、定期的に集まって講義を受けるのですが、その様子がとても懐かしい。2回目のゼミに参加するため、研究室を訪れた主人公が、部屋の様子を語ってくれています。

 

「キャスター付きのホワイトボードやコート掛けなど、以前はなかった備品が持ち込まれている。空だった本棚も今は上から下までぎっしりと厚い書籍で埋め尽くされていた。それでも収まり切らない圧倒的な量の書籍が、床にうずたかく積み上げられている。デスク上には銀製の灰皿が置かれ、すでに吸殻が山盛りだった。室内にも、早くも煙草の臭いが染み付き始めている」(179ページ)

 

私の大学時代にもいました、こういう先生。どこか空想的というか浮世離れしているというか。それでいてやたら自己中心的で頭が切れてて。ページをめくっても意味不明な、辞書のような本がてんこもりの研究室で、煙草ばっかり吸っている先生。

これは作者の実体験なのだろうかと穿ってしまいます。それくらい大学、そして大学教授の生態を生き生きと描写しているからです。読んでいて思わず頬が緩んでしまう。

 

他にも、女子会のごとく、大学近辺の喫茶店で過ごして雑談に花を咲かせる学生たちの様子や、ワトソン・ホームズの推理トークが展開したりと、独特のゆったりとした空間も描かれています。なんと主人公は「合コン」に参加したり、お酒を飲んだりも(!)

大学教授も学生も、空コマにはのんびりと足を運び、喫茶店で余った時間を有意義に過ごす。そんな古き良き大学の様子が、ここには生きているのです。

 

学園ライトノベルの舞台は、ほぼ確定事項とされている。すなわち高校です。私が知っている範囲でしかありませんが、中学校を扱っていたり、大学を扱っているものは、ほとんどありません。なのに本作品は、どうして大学を舞台にしているのでしょうか。

 

さきほど、魔術は学問の謂いだと、私は述べました。

では、問いを広げて、こう問うてみましょう。魔術を駆使する魔術師とは、大学において誰のことなのか。『トリックスターズ』の設定では、魔術を使える人間は限られており、ほとんどの人間は魔術を学んだり研究したりするだけです。本作の大学生は魔術を使えません。

 

もう私が言わんとすることは伝わっていると思います。魔術=科学=学問を操るのは、この世界では、学問をつかさどる存在である学者なのです。大学教授・佐杏冴奈以外にも、おそらく大学に大学教授はいると思いますが、ストーリーの関係上、固有名詞を持ったかたちでは姿をみせません。ずいぶんと示唆的ではないでしょうか。魔術が使える唯一の存在が、唯一の存在である学者である、ということは。

 

学者もよく考えてみれば、不思議な存在です。

私の経験なのですが、何週間もかけて、必死に書きあげた卒業論文の原稿を、ゼミの先生はぱらっと一瞥して、少しばかりボーっとしたかと思うと、

「じんたねさん、こことここ、飛躍しているから」

とか

「ここは議論がずれているからカットね。○○という文献の▽▽ページを読み違えていると思うよ」

なんて言い放ちました。

 

――え、たったあれだけの時間で?

指摘されて腹を立てたというよりも、どうしてあんなわずかな時間で、卒業論文を読解し、その不備を指摘できるのか。しかもやる気なさそうなのに。後日、「どうしてそんな分かるんですか」と聞いたことがあるのですが、「企業秘密」だけど「それくらいは分かるもんさ」と教えてくれました。

――まるで魔法ではないか

大学教授にもなると、魔法が使えるようになるのか。そんな不遜な想像はおくびにも出しませんでしたが、大変、驚きました。

 

もちろん本作品は謎解きミステリーであり、大学を舞台にしているのも、たまたまかもしれません。でも、ページをめくるたびに、学者は現代の魔術師なんだ――そんな香りが匂い立ってくる。私にとっての『トリックスターズ』は、その香りと一風変わった謎解きを同時に楽しめる、お得なライトノベルでした。

(文責:じんたね)

 

追記:次回は、鹿角フェフ(著)・むうりあん(イラスト)『これが異世界のお約束です』ぽにきゃんBOOKS、2015)を予定しています。

これが異世界のお約束です! (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

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