みんな、ラブレター、書いてる?――『佐々木家』の作り方
こんばんは、じんたねです。
今回は、拙作『佐々木家は順調に病み続けます』の誕生秘話について、回顧録を残しておこうかと思います。最近、この作品のプロットから完成までのフローをまとめていたのですが、そういった技術的なものよりも、こちらのほうが文字にしておくべきだと考えました。
(これとは違った角度からは、きんどうさんのインタビューを)
【KDP最前線】サブヒロインも愛してやる!シリアスハーレムラブコメ「暴女桜子さんはラノベの読みすぎです」を執筆したじんたねさんにインタビュー
私、今ではライトノベル作家を、図々しくも名乗っていますが、小説を書き始めたのは30歳を超えてからです。それまでライトノベルを本格的に読んだこともなく、意識して見ようと思ったアニメも、とあるシリーズからという、ロートルな追っかけ組だったりします。
そんな自分ですが、「とある」出会いがきっかけで、ライトノベルを書くようになりました。
職場にいた後輩です。彼は、齢20代前半という、若さまぶしい人物でした。なかなか生活リズムを整えるのが苦手で、時折、遅刻したり出社しなかったりと、大胆不敵な行動パターンの持ち主です。
「じんたねさん、なに読んでるんすか?」
とあるお昼休み。日課の読書中に声をかけられました。じんたね、職場ではけっこう怖がられることが多く(余計なお世話だよちくせう)、お昼の読書時間に割って入るような男性は皆無。こういうのは女性だとうまくいきます。なぜか分かりませんが。
「え、ええと・・・」
言葉を詰まらせながら、当時読んでいた、斉藤道雄『治りませんように――べてるの家のいま――』(みすず書房、2010)を見せてあげました。
「ライトノベルとか、読まないんです?」
「うん? ライトノベル?」
私の読書に興味があった(あるいは夕食に誘ってゴニョゴニョを狙っていた)ということではなく(それもそうか・・・)。どうやら自分の読書経験から、私の本に話題を振ってみたようです。
「・・・スレイヤーズなら」
「ふっるいっすね!」
えええええええ∑(゚Д゚)
古いってどういうことだよ! お前、話題ふったんだから責任とれよ!
俺は懐古厨だってか、そうだよ、その通りだね! うん、ごめんね!
――という心の言葉はぐっと飲み込み。
「俺が最近、読んだのはですね」
そこから滔々とラノベトークが始まる彼。というより、ラノベ原作のゲーム、しかもエロゲについての会話が始まりました。ほんと、真っ昼間の職場でなんて話をしているのやら。『最果てのイマ』を熱心に勧められ、田中ロミオの素晴らしさについてアピールされまくる午後。今思いだしても、とても楽しかったことを憶えています。
「ラノベ、読んだらどうっすか?」
「ラノベ、ねえ・・・」
もう「卒業」したと思っていたライトノベル。今更そんなことを言われようとは。とはいえ、節操なく何でも読みますし、その頃は業務関連の報告書に嫌気がさしていたので、気分転換にとライトノベルを買って帰ることにしました。
「どれにしようかな・・・」
帰宅中によった本屋に並ぶ、ライトノベル。
当時は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』や、とあるシリーズの株が急上昇中で、ライトノベルコーナーは栄華を極めていました。いくつかのラブコメを購入し(もちろん大人買いなので、店員さんはめっちゃ驚いていたけれど)、スキップしながらお家に。
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「最近のラノベって、どうなのさ」
お昼の会話とラノベ購入から、しらばくして。
会話もなかったあの後輩に、私のほうから話かけました。
「当て馬がかわいそうすぎん? メインヒロインばっかり優遇されてアレじゃね?」
そう、感想をこぼしてみました。
どちらかといえば、ハーレムラブコメ作品における女性の扱いに、快い思いはしていませんでした。どうしてメインヒロインが優遇されるのか。自分だったら、こんな性格の悪い娘は選ばないのにな、と。
「もう、私だったらああしてこうして、こんな風にラノベ書くのに」
「・・・・・・」
「あとあと、もっと会話文ばっかりにして、おしゃべり感覚の感じにするのに」
思い返せば、ずいぶんと不満だったのでしょう。立て板に水のごとく、ベラベラとサブヒロインの処遇に対する不満を、しゃべり続けていました。
「だったら、自分で書いたらいいじゃないですか?」
ひと通り話を聞いてくれた後輩は、そうポツリとこぼしました。たぶん私の話を聞きながら気分もよくなかったのだろうなと思いますが、それでも冷静に、さもお昼のメニューを決めるように言いました。
「え、私が書くの?」
「じんたねさん、めっちゃ本読んでるっしょ? 書けるんじゃないです?」
「・・・読むのと書くのって、違うような」
「俺、読んでみたいって思いますよ」
「・・・お、おう」
そうして私は、あろうことかライトノベルの筆をとり始めてしまいました。もちろん仕事が忙しい時期だったため、しばらくは何もしませんでしたが、幸運にもすぐに連休を迎え、ほぼ不眠不休で3日ぶっ続けの作業で、完成させたのが『佐々木家は順調に病み続けます:暴女桜子さんはラノベの読みすぎです』でした。
「か、書いたよ」
「あ、こ、今度読ませてもらいます」
連休明け。彼に印刷した小説を手渡しました。これは私の思い出補正かもしれませんが、その様子はイヤイヤというよりも、どんな小説なんだろうという不思議そうな感じでした。私の書いたライトノベルをダシに、またお昼休みにグダグダとおしゃべりできればいいな。そんなことを考えながら、(読んできたライトノベルへの不満を昇華するかたちで)、書き綴っていました。
――このシーンは笑ってくれるだろうか。
――つまんない展開だけど、我慢できないかしら。
そんな期待と不安を抱きながらの執筆。それは今でも変わらない面白さと怖さと、そして書くことの喜びをもたらしてくれています。
それで後輩は、私のライトノベルにどんな感想を持ったのか。
残念ながら、それは分からないままです。というのも、後輩は新しいプロジェクトに参加し、私とお昼を一緒にすることが少なくなってしまい、お互いに挨拶以上の時間をとれなくなってしまったからです。
一気呵成に書きあげたライトノベル。
それが彼に渡されて、さらに数ヶ月。
今度は、私が異動する羽目に。
そして、すっかり音沙汰もなくなった頃。
風のうわさでは、私の異動直後、その後輩も職場をあとにしたということでした。
――読み手がいる。
どんな書き物にも、必ず想定される読者がいると思います。
それが身近な人であれ、過去の自分であれ、まだ見ぬ超越的な存在者であれ。
私のライトノベル処女作品は、今では電子書籍となり、多くの人に読んでいただけることになりました。もしその後輩が、書いてみればと言わなければ、私は一生、ライトノベルはおろか小説を書くことすらなかったでしょう。もし彼に再会できたなら「どうだい?」と聞いて、散々なダメ出しを酒の肴に、一緒に飲みたいなと思っています。
後輩よ、私のライトノベルはどうだい?
おかげで今じゃ『キミ、色、トウメイ』っての書いているんだ。
届いているかい、私のラブレター。
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